Case292 賞与の考課期間満了後支給日前に病死した労働者に支給日在籍要件を適用することは公序良俗に反するとして賞与請求が認められた事案・医療法人佐藤循環器科内科事件・松山地判令4.11.2労判1294.53
(事案の概要)
本件労働者は、夏季賞与の考課対象期間満了日の後、支給日の20日前に病死により被告法人を退職扱いとなりました。
法人は、賞与支給日に在籍していることを支給要件としており、本件労働者に賞与を支給しませんでした。
本件は、本件労働者の子である原告が、法人に対して賞与の支払いを求めた事案です。
(判決の要旨)
1 賞与の支給額が確定していたか
判決は、法人の規程によれば、理事長の査定を経て賞与の支給の可否や支給額が決まる建前にはなっているものの、法人において、夏季賞与額は原則としてその支給される年の基本給の1か月分の額に1.5を乗じた額にて算定される取扱いが定着しており、このように算定された夏季賞与の支給見込み額は事前に理事長名で通知される運用とされ、業績を原因としてその金額が変動したことはなかったとして、考課対象期間中に在籍し、かつその期間中、長期欠勤などの夏季賞与の支給額が上記通知額を下回るような事情の存しない従業員の夏季賞与の支給額は、当該考課対象期間満了日の経過をもって具体的に確定したと評価されるとしました。
2 支給日在籍要件の有効性
判決は、支給日在籍要件の合理性自体は認めつつ、病死による退職は、定年退職や任意退職とは異なり、労働者がその退職時期を事前に予測したり、自己の意思で選択することはできず、このような場合にも支給日在籍要件を機械的に運用すれば、労働者に不測の損害が生じ得ることになるなどの理由から、本件労働者に対する支給日在籍要件の適用は民法90条により排除されるべきであるとして、賞与の支払いを認めました。
※確定