Case306 法律事務所を退職した弁護士に対する損害賠償請求が棄却され代表弁護士のパワハラを理由とする慰謝料請求の反訴が認容された事案・弁護士法人甲野法律事務所事件・横浜地川崎支判令3.4.27労判1280.57
(事案の概要)
1 本訴
原告法律事務所及びその代表である原告弁護士は、原告法律事務所を退職した被告弁護士に対して、被告が担当事件に関する引継ぎや報告等を一切行わずに一方的に退職したことにより信用を毀損されたとして、損害賠償請求する本訴を提起しました。
2 反訴
これに対して被告は、原告らに対して、主位的に労働者性を主張して未払賃金・残業代等を請求するとともに、予備的に業務委託契約ないし委任契約に基づく未払報酬等を請求する反訴を提起しました。
また、被告は、原告弁護士に対して、違法なパワハラを受けたなどとして、慰謝料等を請求しました。
(判決の要旨)
1 本訴
判決は、原告弁護士が、被告からの退職の申出を一旦受け入れたものの、その後難色を示して退職を留保していたために、被告において事前に告げずに辞表を残して退職したことや、原告弁護士から被告に対する違法なパワハラがあったことなどから、被告の退職の経緯には酌むべき事情があったとしました。
また、被告が退職した際、原告弁護士が被告の代理人に対して、引継ぎは今持っている資料でなとかする、不明な点があれば被告代理人に問い合わせる旨告げていることから、その後になって引継業務を怠ったなどとする原告らの主張は採用できないとし、原告らによる本訴を棄却しました。
2 反訴
⑴ 業務委託報酬について
判決は、被告の労働者性を否定しましたが、1年4か月の間の業務委託報酬として、原告法律事務所に対して300万円の支払いを命じました。
⑵ 慰謝料請求について
判決は、原告弁護士が、被告を叱責する際に、被告のワイシャツの胸ぐらを掴み背後のロッカーに叩きつける、土下座をするよう強い口調で命じる、指示棒やスリッパ等で叩く、「てめえなんか無資格者にしてやるぞコラ。」「てめえの人生奪うことができるぞオラ。懲戒請求で。」などと述べる、被告を「クズ」「バカタレ」「ボケ」などと呼びつけるなどしていたと認定しました。
そして、原告弁護士の一連の行動は、優越的な立場を利用して、適正な指導の範囲を明らかに逸脱して行われた違法なハラスメント行為に当たるとして、原告弁護士に対して、慰謝料200万円の支払いを命じました。
※控訴