Case312 週40時間を超えるシフトによる変形労働時間制を無効とし事実上強制されたセミナーの受講時間が労働時間に当たるとした事案・ダイレックス事件・長崎地判令3.2.26労判1241.16
(事案の概要)
原告労働者が、変形労働時間制の無効を主張して会社に対して残業代請求した事案です。
被告会社の就業規則では、所定労働時間は1か月を平均して1週間40時間とすること、その所定労働時間、所定労働日ごとの始業及び終業時間は事前に作成する稼働計画表により通知されることが定められていましたが、実際に稼働計画表で通知される労働時間の合計が、あらかじめ1か月の所定労働時間に30時間が加算されたものでした。
原告は、会社から、正社員になるには会社が主催する本件セミナーの受講が必須の条件であると説明を受け、「教育セミナーを受講期間中もしくは受講修了後2年以内に退社した場合は、会社が負担した全ての費用を全額返納します」との記載のある誓約書にサインしたうえで本件セミナーを受講しており、本件セミナーの時間が労働時間に当たるのかも争点となりました。
また、会社は、退職した原告に対して、上記誓約書に基づき本件セミナーの受講料等の支払いを求めました。
(判決の要旨)
1 変形労働時間制
判決は、稼働計画表で設定される労働時間が、1か月の平均労働時間が1週間当たり40時間以内でなければならないとする労基法の定めを満たしていないとして、変形労働時間制を無効としました。
2 本件セミナーの労働時間性
判決は、本件セミナーへの参加は事実上強制されていたとして、本件セミナーへの参加時間は労働時間であるとしました。
3 付加金
原告の労働時間について、店長が勤怠管理システムを修正し時間外労働時間をシフトどおりに調整しており、会社もこれを容認していたとして、除斥期間を除く全額の付加金を認めました。
4 セミナー受講料の返還
判決は、①本件セミナーの受講が労働時間と認められること、②セミナーの内容に汎用性がなく、他の職で活かせるとは考えられず、誓約書は従業員の退職の自由を制限するものと言わざるを得ないこと、③受講料について従業員の予測可能性が担保されていないこと、④受講料が合計40万円を超え、決して少額とはいえないことなどから、返還合意は実質的に労基法16条が禁止する違約金の定めであるとして、会社の請求を棄却しました。
※控訴