Case337 既に精神障害を発病している労働者の発病・悪化についても、業務による心理的負荷が精神障害を発病させる程度に強度であるといえるかによって業務起因性を判断すべきであるとした事案・北九州東労働基準監督署長事件・福岡地判令4.3.18労経速2499.9

(事案の概要)

 労災不支給決定に対する取消訴訟です。

 本件会社でシステムエンジニアをしていた原告労働者は、出向中の平成23年4月に精神障害を発症していましたが(本件発症)、帰任後に二人体制でやっていた業務を一人で行うことになり概ね100時間程度の時間外労働や15日間の連続勤務などにより平成27年4月に症状が悪化したとして(本件悪化)、労災申請しましたが、労基署が不支給決定をしていました。

 本件発症の業務起因性は否定されましたが、本件悪化に業務起因性が認められるかが争点となりました。

(判決の要旨)

 判決は、一旦業務外の要因によって精神障害を発病したと認められる労働者がその後精神障害を発病ないし悪化した事案の相当因果関係判断についても、後者の発病ないし悪化の時点で前者の発病が寛解に至っていたか否かで形式的に異なった基準を適用するのではなく、発病ないし悪化時点での当該労働者の具体的な病状の推移、個別具体的な出来事の内容等を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、平均的労働者を基準として、社会通念上客観的に見て、精神障害を発病させる程度に強度であるといえ、業務に内在する危険が現実化したと認められる場合には、当該発病ないし悪化についても業務との相当因果関係を認めて差し支えないとしました。

 そのうえ、本件悪化前の出来事は、労災認定基準の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」に該当し、特に、仕事量が増加して著しく時間外労働時間数が増え、業務に多大な労力を費やす状況に至っていたといえるから、心理的負荷は「強」であるとしました。

 そして、本件悪化は、原告の病状が自然的に増悪したものではなく、まさに業務に内在する危険が現実化したものと認められるとして、業務起因性を認めました。

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