Case418 正社員に退職金を支給する一方で契約社員に退職金を支給しないことが旧労契法20条の不合理な格差に当たるとはいえないとした最高裁判例・メトロコマース事件・最判令2.10.13労判1229.90

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社と有期雇用契約を締結して、契約社員Bとして地下鉄駅構内の売店で勤務していました。

 会社には、無期雇用である正社員の他に、有期雇用の契約社員Aと契約社員Bという契約形態がありました。正社員は配置転換や出向を命ぜられることがありましたが、契約社員Aは配置の範囲が限られ、契約社員Bは配置転換や出向を命ぜられることはありませんでした。また、正社員は契約社員Aは代務業務(欠勤者の代わりに業務を行うこと)がありましたが、契約社員Bはありませんでした。

会社には、契約社員Bから契約社員A、契約社員Aから正社員への登用制度がありました。

 本件は、原告らが、同じ業務に従事している正社員との間に、下記労働条件の相違があることが旧労契法20条の不合理な格差に当たるとして損害賠償請求した事案です。

正社員契約社員B結論
本給+資格手当or成果手当本給のみ不合理とはいえない
住宅手当なし不合理
賞与(2か月分+17万6000円)あり(年額24万円)不合理とはいえない
退職金なし不合理とは言えない
褒賞(勤続10年及び定年時)なし不合理
早出残業手当(2時間まで27%、2時間超35%p)25%不合理

(判決の要旨)

控訴審判決・東京高判平31.2.20労判1198.5

 控訴審判決は、比較対象を売店業務に従事している正社員とし、契約社員Bの各労働条件について以下のとおり判断しました。

1 本給及び資格手当

 比較対象の正社員と比べ、契約社員Bは配置転換の可能性がないという相違があり、本給は正社員の72.6~74.7%と一概に低いとはいえず、正社員と異なり皆勤手当及び早番手当が支給され、登用制度も用意されていることなどから、本給の相違は不合理であるとはいえないとしました。

 また、資格手当は、正社員の各資格に応じて支給されるものであるところ、契約社員Bは業務の内容に照らして正社員と同様の資格を設けることは困難であるとして、資格手当が支給されないことは不合理とはいえないとしました。

2 住宅手当

 住宅手当は、扶養家族の有無によって、従業員が実際に住宅費を負担しているか否かを問わずに支給されることから、職務内容等を離れて従業員に対する生活費を補助する趣旨で支給されるものと解するのが相当であるところ、生活費補助の必要性は正社員と契約社員Bで異ならないとして、住宅手当の相違は不合理であるとしました。

3 賞与

 賞与の支給は使用者の経営判断に基づく一定の裁量が認められており、正社員と契約社員Bの相違が直ちに不合理であるとはいえないとしました。

4 退職金

 原告らが定年まで10年前後の長期間にわたって勤務していたこと、契約社員Aには退職金制度が設けられたことなどから、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に相当する、正社員の4分の1の額すら支給しないことは不合理であるとし、正社員の4分の1の範囲で損害賠償を認めました。

5 褒賞

 実際は勤続10年に達した正社員には一律に表彰状と3万円が贈られるなど要件が形骸化していて、業務内容にかかわらず一定期間勤続した従業員に対する褒賞ということになることから、契約社員Bへの不支給は不合理であるとしました。

6 早出残業手当

 時間外労働の抑制という観点から割増率に相違を設けるべき理由はなく、そのことは法定の割増率を上回る割増賃金を支払う場合にも同様であるとして、相違は不合理であるとしました。

最高裁判決

 最高裁は、退職金以外の点については双方の上告・上告受理申立てを排斥し、控訴審判決の内容が確定しました。

 退職金について、正社員は代務業務を担当していたほか、エリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは売店業務に専従しており業務の内容に一定の相違があったこと、契約社員Bは配置転換等を命ぜられることはないこと、契約社員から正社員への登用制度があることなどから、契約社員Bに退職金を支給しないことも不合理とはいえないとして、正社員の4分の1の範囲で損害賠償を認めた控訴審判決を破棄しました。

Follow me!