Case480 コロナ禍に海外から帰国したタレントが自宅兼事務所で自宅待機する間は在宅勤務を求めた従業員らに対する損害賠償請求が棄却された事案・オフィス・デヴィ・スカルノ元従業員ら事件・東京地判令5.11.30労判1301.5

(事案の概要)

 タレントで自身のマネジメント事業を行う本件会社(自宅兼事務所)の代表者である原告が従業員であった被告労働者A及びBに対して損害賠償請求した事案です。

 原告は、令和3年2月3日にインドネシアのバリ島へ出発し、同月12日に日本に帰国しました。当時は新型コロナウイルスの第3波と呼ばれる流行期で、入国後14日間は自宅待機が必要でした。被告らを含む従業員6名は、原告が新型コロナウイルスに感染している可能性を恐れて原告帰国後の対応を検討していました。同日の午前、羽田空港に迎えに来るよう求める原告に対して、従業員が電話でタクシーの利用を提案すると、原告は激怒し、PCR検査の結果が陰性であるにもかかわらずタクシーの利用を提案するなら全員辞めよと却下しました。同日の昼頃、被告らを含む従業員らは本件話合いを行い、原告の自宅待機期間である2週間は各々在宅での勤務を行う本件方針を決め、原告Aは当該方針を本件文書にまとめ回覧しました。

 同日夜、自宅兼事務所に帰宅した原告に対し、被告Aは、被告Bらの同席の下、本件方針を伝え、原告の自宅待機期間中は在宅勤務を認めるよう要望しました。原告が「あなた、何言ってんのよ。私は病原体でもなんでもないわよ」と述べたところ、被告Aは「そうでもないですけど」と応答し、原告がその理由を尋ねたところ、被告Aは「陰性であっても…」と述べました(本件発言)。

 原告は、①被告らが主導して他の従業員らに違法な共同絶交の合意を形成させ出勤を拒否させた、②被告らが原告を新型コロナウイルスの感染者又は濃厚接触者と決めつけて侮辱した、と主張しました。

 なお、被告らは別件訴訟において本件会社と解雇無効を争っています。

(判決の要旨)

1 他の従業員らに違法な共同絶交の合意を形成させたか

 判決は、被告らが他の従業員らに対して違法、不当な働きかけなどをしたことを認めるに足りる証拠はない、被告らが本件話合いにおいて他の従業員らの明示又は黙示の意向に反して独断でこれを主導したとは認められないなどと指摘し、被告Aが本件文書を作成したことや本件方針を原告に伝えたことなどを考慮しても、被告らが他の従業員らの意向にかかわらず、本件話合いを主導して本件方針を決定させたと認めることはできないとしました。

 また、海外から帰国した原告が新型コロナウイルスに感染している可能性があることを懸念して、原告の自宅兼事務所に出勤することとなる従業員らが本件方針を決定し、その旨を原告に申し出たこと自体が直ちに不合理とはいえず、これをもって原告との関係で社会通念上許されない違法な共同絶交などに当たるということはできないとしました。

2 原告をコロナ感染者又は濃厚接触者と決めつけて侮辱したか

 判決は、被告Aの言動は、原告の検査結果が陰性であってもなお原告に新型コロナウイルス感染の可能性があることを前提とするもの又は指摘するものといえるが、飽くまで可能性をいうものであって、原告を感染者又は濃厚接触者と決め付けたものとは評価できないとしました。

 また、当時の社会的状況等に照らすと、被告らが、帰国した原告に新型コロナウイルス感染の可能性があると懸念すること自体が直ちに不合理とはいえず、本件方針の申出や本件発言をした経緯、内容等に照らすと、被告らが原告に当該感染の可能性があることを指摘したことが、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは認められないとし、原告の請求をいずれも棄却しました。

※控訴

Follow me!