Case509 裏方業務及び公演出演について劇団員の労基法上の労働者性が認められた事案・エアースタジオ事件・東京高判令2.9.3労判1236.35
(事案の概要)
原告労働者は、会社が運営する本件劇団に劇団員として入団しました。
本件劇団は、年末には翌年の公演の年間スケジュールを組み、2つの劇場を利用して年間約90本の公演を行っていました。
劇団員は、公演への出演のほかに、入団契約において大道具、小道具及び音響照明などの裏方業務に積極的に参加することとされ、各裏方業務について「課」に所属して業務を行っていました。
原告を含む男性劇団員は、公演のセット入替えの際、22時頃から翌日15時頃までの間、可能な限りセットの入替えに参加することとされ、音響照明は、各劇団員が年間4回程度担当するよう割り振りが決められていました。
また、原告は、小道具課(2名)に所属し、年間を通じてほぼ毎週行われる公演のうちどの公演の小道具を担当するか割り振りを決め、日々各公演の小道具を担当していました。
会社は、当初劇団員に対して金銭を支払っていませんでしたが、裏方業務を行う劇団員に対して月6万円を支給するようになりました。
本件は、原告が会社に対して、裏方業務及び公演出演における労働者性を主張し、最低賃金法による賃金及び割増賃金の支払を求めた事案です。
(判決の要旨)
1 規範
判決は、労基法上の労働者と認められるか否かは、契約の名称や形式にかかわらず、一方当事者が他方当事者の指揮命令の下に労務を遂行し、労務の提供に対して賃金を支払われる関係にあったか否かにより判断するとしました。
そして、本件劇団において原告が従事した業務は多様なものであるところ、原告と会社が労働者と使用者の関係にあったか否かは、上記観点を踏まえ、原告が、劇団における各業務について、①諾否の自由を有していたか、②その業務を行うに際し時間的、場所的な拘束があったか、③労務を提供したことに対する対価が支払われていたかなどの諸点から個別具体的に検討すべきであるとしました。
2 裏方業務について
判決は、業務の実態から、原告が大道具に関する業務や音響照明の業務について、担当しないことを選択する諾否の自由はなく、業務を行うに際しては、時間的、場所的な拘束があったとしました。
また、小道具に関する業務についても、公演本数が年間約90回と多数であって、原告が小道具を全く担当しないとか月1回だけ担当するというようなことが許される状況にはなかったことなどからすると、原告が小道具を担当するか否かについて諾否の自由を有していたとはいえないとしました。
そして、月6万円は裏方業務に対する対価として支給されたものであるとしました。
以上より、判決は、裏方業務について原告の労働者性を認めました。
3 公演出演について
判決は、確かに、原告は、本件劇団の公演への出演を断ることはできるし、断ったことによる不利益が生じるといった事情は窺われないとしつつも、しかしながら、まず出演者は外部の役者から決まっていき、残った配役について出演を検討することになり、かつ劇団員らは公演への出演を希望して劇団員となっているのであり、これを断ることは通常考え難く、仮に断ることがあったとしても、それは会社の他の業務へ従事するためであって、会社の指示には事実上従わざるを得なかったのであるから、諾否の自由があったとはいえないとしました。
また、劇団員らは、他の劇団の公演に出演することなども可能とはされていたものの、少なくとも原告については、裏方業務に追われ他の劇団の公演に出演することはもちろん、アルバイトすらできない状況にあり、しかも外部の仕事を受ける場合は必ず副座長に相談することとされていた上、勤務時間及び場所や公演についてはすべて会社が決定していたことなどの事情も踏まえると、公演への出演、演出及び稽古についても、会社の指揮命令に服する業務であったとして労働者性を認めました。
※確定