【解雇事件マニュアル】Q30打切補償による解雇が解雇権濫用に当たる場合はあるか

 労基法81条の打切補償が支払われ、同法19条1項の解雇制限が適用されないとしても、労契法16条の解雇権濫用法理は適用されるため、業務上の傷病を理由とする解雇が必ず有効になるわけではない。

 もっとも、アールインベストメントアンドデザイン事件・東京高判平22.9.16判タ1347号153頁は、打切補償は、業務上の負傷または疾病に対する事業主の補償義務を永久的なものとせず、療養開始後3年を経過したときに相当額の補償を行うことにより、その後の補償責任を免責させようとするものであるから、打切補償の要件を満たした場合には、使用者が労働者を打切補償により解雇することを意図し、業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような、打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められない限りは、解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められることになるというべきであるとし、打切補償による解雇を有効としている。学校法人専修大学(差戻審)事件・東京高判平28.9.12労判1147号50頁も、労働者の労務提供の不能や労働能力の喪失が認められる場合には、解雇には客観的に合理的な理由が認められ、労基法81条による打切補償がされたときは、解雇までの間において業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような特段の事情がない限り、解雇は社会通念上も相当と認められるものと解するのが相当であるとして、打切補償による解雇を有効とした。

 したがって、打切補償による解雇が解雇権濫用に当たる場合もあるものの、それは例外的な場合に限られる。

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