Case556 2名体制の当直設備員の仮眠時間が労働時間に当たるとされ1か月単位の変形労働時間制が無効とされた事案・大成事件・東京高判令6.4.24労判1318.45
(事案の概要)
ビルの設備機器を運転操作し、点検・整備などの保守作業を行う設備員(エンジニアリングスタッフ)である原告労働者ら3名が、被告会社に対して残業代請求した事案です。
原告ら設備員は、2名体制での当直勤務の際に、交代で本件ビル内の設備控室で仮眠をとっていました。設備控室には、二段ベッドのほか、内線電話、防災センターからの緊急呼出装置、インターフォンが設置されていました。仮眠時間は、午後9時から翌日午前8時までの間で、交代で5時間ずつとされていましたが、その始期と終期は厳密に定められていませんでした。
会社の緊急マニュアルには、住戸内で緊急発報があった場合、2名以上で現地に急行することとされ、夜間で不足の場合は仮眠者を起こすべきである旨の記載があり、実際に仮眠時間に相当する時間に設備員がトラブルに対して複数名で対応した件数は、1か月に1件を上回っていました。
また、1か月単位の変形労働時間制の適用も問題となりました。
(判決の要旨)
1 仮眠時間の労働時間性
判決は、仮眠時間の始期と終期が厳密に定められていなかったこと自体、会社が仮眠時間に設備員を労働から解放することを軽視していたことの証左であるとしました。
そして、緊急マニュアルの記載や対応の実態、会社が原告らに対して1人で対応するよう指導することがなかったことなどから、原告らは、会社から仮眠時間であってもトラブル等が生じた際には仮眠者を起こして2名で対応することを義務付けられていたとして、仮眠時間全体が労働時間に当たるとしました。
2 変形労働時間制
判決は、最高裁判例を引用し、勤務シフトによって変形労働時間制を適用する要件が具備されたというためには、作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要があるとしました。
そして、本件ビルでの勤務表における始業・終業時刻がそもそも就業規則と一致していないこと、勤務割に関して作成される書面の内容、作成時期や作成手続等について定めた規定がないこと、原告らの勤務表には1か月の週平均労働時間が40時間を超えていた月が相当数あったことなどから、変形労働時間制を無効としました。
また、変形労働時間制が無効である場合の割増賃金について、労基法32条2項により所定労働時間は1日8時間に短縮され、会社が原告らに対して支払っていた月給は短縮された1日8時間の所定労働時間に対する対価としての賃金となり、8時間を超える部分の労働については全く賃金が支払われていないことになるとしました。
※確定