【残業代】Case584 歩合給を運行時間外手当とする賃金規程の改定が不利益変更に当たり労働者の合意書があっても無効とされた事案・あさと物流事件・神戸地判令6.5.13労判1323.57

⑴ 事案の概要

 原告Xは、被告である運送会社Y社に雇用されていました。Y社は、旧規定から本件規定へ賃金規定を改定しました。この改定により、旧規定にあった歩合給が廃止され、代わりに「運行時間外手当」が導入されました。運行時間外手当は、運賃収入に一定割合を乗じるなどの算定基準によって算出され、時間外・深夜・休日労働に対する割増賃金に充当されると定められていました。改定にあたり、会社と従業員との間で合意書が取り交わされていました。

 原告は、この賃金規定の改定は就業規則の不利益変更として無効であると主張し、改定前の賃金規定に基づいて算定されるべき割増賃金等との差額の支払いを求めました。

 なお、変形労働時間制も無効とされています。

⑵ 判決の要旨

ア 賃金規定の改定の有効性について

 判決は、賃金規定の改定について、会社から真摯かつ正確な説明がなかったとして、従業員との間で取り交わされた合意書の内容を踏まえても、改定によって生じる不利益性についての労働者の十分な理解を得てなされたものとは認めがたく、すでに改定から相当期間が経過していることを考慮しても、労働者の自由な意思に基づくとみられる客観的合理的な理由は認められないと判断し、上記改定による不利益変更は無効であると結論づけました。

イ 運行時間外手当の性質について

 賃金規定の改定が無効であることから、本件規定における運行時間外手当は、これに対応する旧規定における歩合給等と同様に、割増賃金の算定の基礎に含まれ、割増賃金への充当は認められないとしました。

 運行時間外手当のうち運賃収入に一定割合を乗じて算出する部分は、旧規定の歩合給に対応するものであるから、歩合給としての割増賃金の算定の基礎とし、その余の部分は固定給として取り扱うべきであると判断しました。

※確定

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