【残業代】Case641 求人広告による労働条件提示の内容での労働契約の成立を認定しそれと異なる基本給の固定残業代への変更合意を無効とした事案・Apocalypse事件・東京地判平30.3.9労経速2359.26
【事案の概要】
被告Y社は、居酒屋を新規開店するにあたり、調理スタッフを募集しました。求人広告には「月給25万円〜40万円」「実働8時間/シフト制」「4週6休」などの労働条件が提示されていました。原告労働者X1およびX2はこれに応募し、Y社との間で、X1は月額40万円、X2は月額34万円の支払を受ける約束で採用されました。しかし、労働契約書や労働条件通知書は作成されませんでした。
実際の勤務が始まると、Y社は、当初の合意や事前の説明なく、給与明細において上記の総額を「基本給」と「定額残業手当(固定残業代)」などの諸手当に独断で割り振って支払いました。
Xらは、当初合意した月額40万円/34万円を基礎賃金(基本給)とした割増賃金(残業代)の支払いを求めて提訴しました。休憩時間の有無も争点になりました。
【判決の要旨】
1. 労働契約の内容(基礎賃金)の認定
判決は、求人広告その他の労働者募集のための労働条件提示について、労働者が応募して労働契約を申し込むときは上記労働条件提示の内容を当然に前提としているから、上記労働条件提示で契約の内容を決定できるだけの事項(一定の範囲で使用者に具体的な決定権を留保するものを含む。)が表示されている限り、使用者が上記労働条件提示の内容とは労働条件が異なることを表示せずに労働者を採用したときは、労働者からの上記労働条件提示の内容を含む申込みを承諾したことにほかならず、両者の申込みと承諾に合致が認められるから上記労働条件提示の内容で労働契約が成立したというべきであるとしました。
本件では、残業代が含まれる旨の説明がないまま採用されたことから、提示された金額(40万円/34万円)は1日8時間の所定労働時間内の勤務に対する賃金(基本給)であると認定されました。また、給与明細での「定額残業手当」等の区分は、契約成立後にY社が一方的に決定したものであり、変更の効力はないとされました。
Y社は、途中で定額残業代制に合意したと主張しました。判決は、このような合意を成立させる労働者の同意の有無は慎重に判断されるべきであり、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきであるとしたうえ、本件では、具体的な話し合いや合意書面がないことから、自由な意思に基づく同意を否定しました。
2. 休憩時間
判決は、休憩時間に該当するためには、当該時間に労働から離れることが保障されて自由に利用でき、使用者の指揮命令下から離脱しているといえることを要するとし、本件では、来客に備えて常に待機する必要があり、食事中もオーダーがあれば対応しなければならなかったことから、作業に従事していない時間も「手待時間」として労働時間に該当すると判断しました。

