Case656 誓約書による競業避止義務が認められたものの期間及び金額の一部が公序良俗に反し無効とされた事案・シーリス元従業員事件・大阪高判令7.6.25労判1341号128頁
【事案の概要】
原告会社Xらが被告元労働者Yに競業避止義務違反を理由に損害賠償請求した事案です。
Yは、交通警備業を営む原告X1社に在籍しつつ、原告X2社および原告X3社に出向して業務を行っていました。
Yは、Xら在職中にXらに知らせることなく、Xらと競合するA社の取締役に就任し、X2社の下請業者として取引を行いました。さらに、Yは競合するB社を設立して代表社員となり、A社との間で取引を行いました。XらはYのこれらの競業行為を察知し、Yを呼び出して事実を認めさせました。その際、Yは「在職中及び退職後5年間は、Xらと実質的に競合関係に立つ事業者等に就職・役員就任したり、自ら事業を営まない」こと、違反した場合は「違約金として2000万円を支払うほか、実損害が超える場合はその部分も賠償する」旨の誓約書(本件誓約書)に署名しました(本件合意)。
Yは本件誓約書作成の翌月に退職しましたが、退職後もA社の取締役を継続し、B社での警備業も続けるなど、競業行為を行いました。そのためXらは、Yに対し本件合意の債務不履行に基づく違約金等の支払いを求めて提訴しました。
【判決の要旨】
判決は、以下のように述べてYに対して合計約1000万円の支払いを命じました。
1.労基法16条
判決は、本件合意のうち、在職中の競業行為を対象とする部分は労基法16条(賠償予定の禁止)により無効であるとしましたが、退職後の競業行為については同条に反しないとしました。
2.公序良俗違反
⑴ 期間
判決は、Yの競業行為は、Xらとの労働契約における信義則上の義務(労働契約法3条4項参照)に違反するものであり、本件誓約書は、そのようなYの義務違反行為を踏まえ、その防止などの観点から作成されたものであるから、本件合意はXらの正当な利益の保護を目的とする合理的なものといえ、そのような義務違反行為を前提とせずに労働契約において競業避止義務を定めた場合と同様に解することはできないとしました。
もっとも、Yの地位や情報へのアクセス権、代償措置の欠如等を総合考慮し、競業避止期間については、退職後2年間とする限度において有効とし、それを超える部分は公序良俗に反し無効であるとしました。
⑵ 金額
判決は、本件誓約書は、Yによる在職中の競業行為が発覚したことを踏まえ、その防止などの観点から作成されたものであること、Xらの売上高及び純利益額がYの競業行為によって、相当額の損害が発生する可能性があることからすると、違約金額を一定の高額に定めることに合理性はあるというべきであるとしました。しかし、他方で、約3年1か月というYのX1への在籍期間及び月約36万円というYの給与額を踏まえると、Yが住宅(社宅)、社用車及び携帯電話の貸与を受けていたことを考慮しても、本件誓約書の2000万円という違約金の金額は、不当に高額というべきであり、その2分の1の額(1000万円)を超える部分については、公序良俗に反し無効と解すべきであるとしました。
※上告受理申立

