Case430 休職理由である適応障害とは異なるコミュニケーション能力等の問題を理由とした自然退職扱いを無効とした事案・シャープNECディスプレイソリューションズほか事件・横浜地判令3.12.23労判1289.62
(事案の概要)
原告労働者は、職場で度々涙を流すようになり、適応障害と診断され、被告会社から平成28年3月から平成29年7月まで休職を命じられました。
原告の主治医は、原告がASD(自閉症スペクトラム)だと考えましたが、確定診断には至りませんでした。平成29年3月、主治医は「能力発達に元々特性があり、業務に支障をきたす人」という記載とともに、復職のための要配慮事項などを記載した診療情報提供書を作成しました。
しかし、会社は原告の復職先として適した仕事が見つからないとして、原告の復職を不可としました。
主治医は、平成29年4月に「適応障害にて通院加療して休職中であったが回復した」とする診断書を作成し、同年7月には産業医が復職可の意見を述べましたが、会社は原告を復職させず、原告の休職期間を平成30年10月まで延長しました。
平成30年9月、会社は原告に対して主治医と指定医の二つの診断書を提出するよう求めましたが、原告が指定医の診断書しか提出しなかったとして原告を休職期間満了で自然退職扱いしました。
本件は、原告が会社に対して退職扱いの無効を主張して雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、休職期間の満了により自然退職とすることは、いわゆる解雇権濫用の法理の適用を受けることなく、休職期間満了による雇用契約の終了という法的効果を生じさせるものであるから、休職の直接の事由となった傷病とは別の事情により労働契約の債務の本旨に従った履行の提供ができないとして、休職期間の満了により自然退職とすることはできないとしました。
そして、原告の適応障害は平成29年4月には寛解しており、同年7月に産業医が復職可の意見を述べた以降は原告を復職させるべきであったとして、休職の直接の原因となった適応障害が寛解した後も、本来的な人格構造や発達段階での特性や傾向に起因するコミュニケーション能力、社会性等の問題を理由に復職が認められなかったことによる休職期間徒過に伴う自然退職は無効であるとして、原告の雇用契約上の地位等を認めました。
※控訴後取下げ