Case478 パワハラ訴訟における原告労働者の訴訟行為や同僚の陳述書の作成・提出が被告に対する違法な名誉毀損に当たらないとされた事案・グリーンキャブ(パワハラ)事件・横浜地判令3.2.4労判1300.75

(事案の概要)

 原告労働者は、被告所長からパワハラを受けたなどとして、被告会社及び被告所長に対して損害賠償請求しました(第1事件)。第1事件において、原告は、同僚A及び同僚Bの陳述書を提出しました。第1事件は、会社との関係では和解が成立し、被告所長との関係では原告の請求が棄却されています。

 被告所長は、第1事件における原告の主張や同僚A及び同僚Bの陳述書により被告所長の名誉が毀損されたとして、原告、同僚A及び同僚Bに対して損害賠償請求しました(第2事件)。今回は第2事件について取り上げます。

(判決の要旨)

1 第1事件原告に対する請求

 判決は、民事訴訟は、当事者が相互に攻撃防御を尽くして事実関係を究明するとともに、法律的見解について論争を展開し、裁判所が双方の主張・立証活動を踏まえて判断を示すことにより紛争を解決する制度であるため、当事者間の利害や感情の対立も激しくなる傾向があり、時には一方当事者の主張や立証活動が相手方当事者等の名誉や信用を損なうような事態を招くこともあるが、それは飽くまでも紛争を解決するための訴訟手続の過程における当事者の暫定的又は主観的な主張や立証活動の一環にすぎず、もしそれが一定の許容限度を超えるものであれば、裁判所が適切に訴訟指揮権を行使することによって適宜是正することが可能であるし、相手方にはそれに反駁する等の訴訟活動を展開する機会が制度上保障されているし、当事者の主張や立証の当否等は最終的に裁判所の裁判によって判断されるから、これにより一旦は損なわれた名誉や信用を回復することができる仕組みになっているとしました。

 そして、このような民事訴訟における訴訟活動の特質又は仕組みに照らすと、当事者の主張や立証活動といった訴訟行為について、相手方等の名誉等を損なうようなものがあったとしても、それが直ちに名誉毀損として不法行為を構成するものではなく、当該訴訟行為が訴訟手続きの趣旨、目的に照らして、およそ必要性が認められないとか、手段、方法の点で著しく不当であるなど、それを行うことが権利の濫用に当たるような特段の事情のない限り、違法性が阻却されるとしました。

 そのうえで、第1事件における原告の各訴訟行為については、訴訟行為としての必要性及び関連性が優に認められ、これらが権利濫用に当たるような特段の事情も認められないから、名誉毀損の不法行為は成立しないとしました。

2 同僚A及びBに対する請求

 判決は、陳述書に、当事者等の社会的評価を低下させる事実や当事者等の名誉感情を害する事実が記載されている場合、同事実が裁判所に認定されなかったときや、同事実と相容れない事実が裁判所によって認定されたときに、当該陳述書を作成し訴訟において書証として提出する行為が直ちに違法と評価されるとすれば、陳述書の作成者は自己の認識にかかわらず、裁判所によって認定されることが確実と思われる事実しか記載しなくなり、これによって陳述書の主尋問を一部代替又は補完する機能及び証拠開示機能(反対尋問権保障機能)が失われるとともに、当事者の立証活動に大きな萎縮的効果が生じ、実態の解明を困難にするなど、民事訴訟の運営に支障を来す事態が容易に生じ得るとし、陳述書を作成し、訴訟において書証として提出する行為は、作成者が陳述書記載の当該事実の内容が虚偽であることを認識しつつ、あえてこれを記載して行った場合に限り、違法性を帯びるとしました。

 そして、同僚A及びBにそのような事実は認められないとして、これらの陳述書の違法性を否定しました。

※確定

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