Case505 懲戒処分ではない日勤教育について必要かつ相当とはいえず使用者の裁量権を逸脱したものとして違法とされた事案・JR西日本(森ノ宮電車区・日勤教育等)事件・大阪高判平21.5.28労判987.5
(事案の概要)
1 日勤教育
原告労働組合の組合員である運転士の原告Aは、電車の運転中に停止位置を行き過ぎて自動ブレーキが作動したにもかかわらず、無断でこれを復帰させ、この事実を報告しないまま一旦退社し、午後になって係長に報告した件について、被告会社から45日間にわたる日勤教育を受けました。日勤教育は、懲戒処分ではないものの、レポート(始末書)の作成や訓練を命じられるもので、運転業務を行った場合に支給される乗務員手当が支給されませんでした。
同じく原告組合の組合員である運転士の原告Bは、電車の構内入換作業中に非常ブレーキで停車し、信号担務にその理由を「スズメが進路妨害をした。」と報告した件について、会社から12日間にわたる日勤教育を受けました。
原告A及びBは、会社、被告主席助役及び被告区長に対して、日勤教育が違法であるとして損害賠償請求しました。
2 組合掲示物の撤去
組合掲示板の提示物について、労働協約に「会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、または職場規律を乱すもの」との撤去要件が定められていたところ、会社は、原告組合の掲示物10枚を撤去しました。
原告組合及び原告関西地方本部は、被告らに対して、掲示物の撤去が不当労働行為に当たるとして損害賠償請求しました。
(判決の要旨)
1 日勤教育の違法性
判決は、労働者の教育をいかに行うかは、基本的に使用者の裁量に委ねられており、使用者が労働者に対し具体的にいかなる教育を実施するかについては、当該企業の経営方針や業務内容、経営環境、受け手となる労働者の能力、教育の原因となった事象の内容等、諸般の事情に照らして決することになるとしました。
もっとも、例えば運転士が日勤教育に指定されると乗務員手当が支給されず実質的な減給となることからすると、いかに必要な教育のためとはいえ、その教育期間は合理的な範囲のものでなければならず、いたずらに長期間労働者を賃金上不利益でかつ不安定な地位に置くこととなる教育は必要かつ相当とはいえず、使用者の裁量権を逸脱して違法となるとしました。
そして、原告Aに対する日勤教育について、その必要性は認められるとしつつ、①あらかじめ教育の予定期間等が本人に明示されておらず、いつ、どのような状態になれば教育が終了になるのか分からないという不安定な地位に、長期間置かれていたこと、②会社の他の再教育事例に対し極めて長期であること、③日勤教育の内容、期間が効率的な方法とはいいがたく、より短期間でこれを行うことができなかったのかには疑問があるようなものであったこと等から、当該日勤教育は、全体として教育として必要かつ相当なものとはいえず違法であるとして、慰謝料30万円を認めました。
また、原告Bに対する日勤教育については、そもそも教育の必要性がなかったとして、業務命令を違法とし、慰謝料40万円を認めました。
2 組合掲示物の撤去の違法性
判決は、撤去要件に該当するか否かを検討するに当たっては、当該掲示物が全体として何を伝えようとし、訴えようとしているかを中心として、実質的に撤去要件を充足しているか否かを考慮すべきであり、細部の記述や表現のみを取り上げて判断すべきではないし、撤去要件に形式的に該当しても、当該掲示物の掲示が会社の信用を傷つけ、個人を誹謗し、あるいは職場規律を乱したか否か等々について、その内容、程度、記載内容の真実性等の事情を実質的かつ総合的に検討し、当該掲示物の掲示が正当な組合活動として許容される範囲を逸脱していないと認められる場合には、当該掲示物の撤去行為は、組合に対する支配介入として不当労働行為に当たるとしました。
そして、10枚のうち6枚の撤去について、掲示は正当な組合活動であるから、撤去は不当労働行為に当たるとし、原告関西地方本部について慰謝料27万5000円、原告組合について慰謝料2万5000円を認めました。
※上告