Case513 募集要項の記載から無期雇用契約の成立を認定したうえ有期雇用への変更合意を否定し労働者の「退勤」のツイートを終業時刻と認定した事案・司法書士法人はたの法務事務所事件・東京高判令5.3.23労判1306.52

(事案の概要)

 原告労働者は、被告法人が求人サイトに掲載していた庶務事務の募集要項をみて、これに応募しました。募集要項には、「雇用形態 正社員」「試用期間3か月」と記載されていました。原告は、採用面接において法人から雇用形態について何ら説明がなかったことから、募集要項に記載されたとおり正社員として採用されたものと認識し、勤務開始しました。

 勤務開始後、追って作成する旨の説明を受けていた雇用契約書について、原告が法人の事務局長に尋ねたところ、雇用期間の定めのある雇用契約書を渡されました。原告は、期間の定めがあるのはおかしいと思ったものの、就労を開始した後であり、雇用契約書への署名押印を拒むことで解雇されることを恐れ、同契約書に署名押印しました。

 その後、事務局長は、原告に対して、本件雇用契約を延長しないとして、原告に対して退職届を提出するよう求めました。事務局長を含む従業員5名は、原告が退職届を提出せずに帰宅しようとしていることに気付き、原告を取り囲み「訴えるぞおらお前!いいのか!?」「お前の事務所じゃねえんだよ!」「なめんなこの事務所!」「被害者意識持ってんじゃねえぞてめえ」などと暴言を吐きながら執拗に退職届を提出するよう求めたうえ、原告が事務所から退出しようと非常階段に向かうと力づくでこれを阻止し、非常階段の踊り場で取り囲み、原告の襟首をつかんだり鞄を引っ張ったりして事務所に戻そうとし、警察官が臨場する事態となりました。

 原告は、退職届を提出しなかったものの、翌日から出勤できず、その後他社に就職して被告法人における就労の意思を喪失しました。

 法人は、従業員の労働時間管理のためにタイムカードを導入していましたが、従業員に対し、出勤時のみタイムカードの打刻を認め、退勤時には打刻をしないよう指示していました。そこで原告は、Twitterで自身の労働時間を管理しようと考え、「出勤」「退勤」とツイートしていました。

 本件は、原告が法人に対して、本件雇用契約が期間の定めのない契約であることを前提に、出勤できなくなってから就労意思を喪失するまでの賃金の支払、退職勧奨による損害賠償及び残業代の支払を求めた事案です。

(判決の要旨)

⑴ 不就労期間の賃金請求

 判決は、本件募集要項は無期契約を前提としていると読め、原告がそれを前提に面接に臨んだし、法人もそれを認識していたといえること、原告が面接時に法人から契約期間について何ら説明を受けなかったこと等を考慮すると、原告は面接において本件募集要項どおりに期間の定めのない労働契約を申込み、法人はこれを承諾したものと認められるから、本件労働契約は面接において期間の定めのないものとして成立していたと認めるのが相当であるとしました。

 法人は、原告が合意退職したと主張しましたが、判決はこれを否定しました。

 また、法人は、本件雇用契約書により本件雇用契約が有期契約に変更されたと主張しましたが、判決は、本件雇用契約の作成にあたり、法人が原告に対して、本件雇用契約を無期契約から有期契約に変更すること等についての説明、すなわち、本件労働契約が現状は無期契約であること、変更する理由及び必要性があること、契約期間満了後に雇止めがあり得ること等について説明したと認めることはできず、原告が本件雇用契約書の内容について、自由な意思に基づいて合意をしたとは認められないから、本件雇用契約書によっても、本件雇用契約を無期契約から有期契約に変更する合意が成立したとはいえないとしました。

 そして、原告が出勤できなくなってから就労意思を喪失するまでの間の不就労については、法人の責めに帰すべき事由によるものであるとして、原告の賃金請求を認めました。

⑵ 損害賠償

 判決は、事務局長ら5名の行為は、退職勧奨における説得のための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法なものであるとして、不法行為に基づき法人に対して慰謝料20万円の支払を命じました。

⑶ 残業代請求

 判決は、原告がツイートを開始したのは、法人からタイムカードを打刻しないように言われた翌日からで、その経緯は自然であり、出勤のツイート時刻はタイムカードと概ね一致していたことを指摘し、所定労働時間内に業務が終わらないことがあったと推認させる事情もあることから、原告のツイートは基本的に信用することができるとしました。

 そのうえで、本件では法人が退勤時にタイムカードを打刻させないといった著しく不当な労働時間の管理をしていることによって、原告の終業時間を示す客観的な証拠が他になく、ツイートの信用性を覆すに足りる証拠がないとして、原告のツイートを終業時間とする残業代請求を認めました。

※確定

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