【不当解雇】Case600 業務と直接関係のない機密情報へのアクセス等を理由とする解雇が無効とされた事案・Velocity Global Japan事件・東京地判令6.9.25労判1330.69
業務と直接関係のない機密情報へのアクセス等を理由とする解雇が無効とされた事案・Velocity Global Japan事件・東京地判令6.9.25労判1330.69
業務と直接関係のない機密情報に繰り返しアクセスしたことは解雇理由になるのでしょうか。
Velocity Global Japan事件は、従業員が会社の機密情報にアクセスしたことや、セクシュアルハラスメントの被害を訴える際に脅迫的な表現を用いたとされることを理由に解雇された件で、解雇が無効とされた事案です。
【事案の概要】
本件は、原告労働者(X)が、被告合同会社(Y社)との雇用契約に基づき、国外に所在するA社の指揮命令下で営業活動に従事していた状況下で、A社の機密情報へのアクセスやハラスメント被害を訴える際に脅迫的な発言を行ったことを理由に普通解雇されたことに対し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。具体的な解雇理由は、XがA社のサーバー内の資料に約200回にわたりアクセスし、そのうち約70回はXの業務と関連が薄く機密性の高い資料であり、これらを業務以外の目的で使用しようとしたこと、また、Xがセクシュアルハラスメントの被害を訴える際に「この問題を軽視することは企業の信用にさらなる損害をもたらす可能性がある」などの脅迫的な発言を行い、A社の業務を混乱させたことです。
【判決の要旨】
裁判所は、各解雇理由について以下のとおり判示し、Y社によるXの解雇を無効と判断しました。Xの慰謝料請求は否定しました。
⑴ 機密情報へのアクセスについて
Xの機密情報へのアクセスの事実は認められたものの、Xがアクセスした資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたとは認められませんでした。
裁判所は、将来の顧客の要望に備えてA社の業務に関する幅広い知識を得ることは業務の一環であり、Xがアクセスした治験部門以外の資料もXの業務との関連が薄いとは認められないとしました。
Xが以前の勤務先で機密情報を業務以外の目的で使用しようとしたことがあったとしても、A社において同様の意図があったとは推認できないとされました。
したがって、この点は解雇理由にならないとされました。
⑵ ハラスメント申告と脅迫的言動について
Xのメールにおける「この問題を軽視することは企業の信用にさらなる損害をもたらす可能性がある」という文言は、直ちに脅迫とは言えないと判断されました。
「A社がすべてのマネージャーにこのような出来事が再び起こらないようにするためのトレーニングを行ってくれることを期待しています」という記載も踏まえ、ハラスメントに対する厳正な対処と再発防止を求める趣旨と解釈できるため、不当なものとは言えないとされました。
Xのその他の言動も、セクシュアルハラスメントの被害を訴え、報復措置の疑念の解消を求めるものとして、不当なものとは認められませんでした。
Xのセクシュアルハラスメントの被害申告が不当な動機に基づくものだという証拠や、Xが報復措置を受けたとの根拠薄弱な主張を繰り返したという証拠も認められませんでした。
したがって、この点も解雇理由にならないとされました。
【まとめ】
• 業務と直接関係のない機密情報にアクセスした事実があっても、当該情報を業務以外に使用する目的があったとまでいえない場合には解雇理由にならなと判断された
• 「この問題を軽視することは企業の信用にさらなる損害をもたらす可能性がある」という表現は、脅迫ではなく、ハラスメントへの厳正な対処と再発防止を求める正当な要求と解釈された