Case91 使用者から労働者に対する損害賠償請求を制限した最高裁判例・茨城石炭商事事件・最判昭51.7.8民集30.7.689【百選10版28】
(事案の概要)
被告労働者は、業務で原告会社のタンクローリーに乗務していた際に、A社のタンクローリーに追突する本件事故を起こしました。
本件は、会社が被告労働者に対して、本件事故によって会社がA社に支払った示談金について民法715条3項に基づく求償を、会社の損害については不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。
(判決の要旨)
一審判決
一審は、会社の請求を損害の4分の1の限度で認容しました。
控訴審判決
控訴審も、会社の被告労働者に対する権利行使は、4分の1を限度とし、これを超過する部分はいずれも信義則に反し、権利の濫用として許されないとしました。
上告審判決
最高裁は、使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるとしました。
そして、本件では会社が経費削減のために対物賠償責任保険及び車両保険に加入していなかったこと等から、会社が被告労働者に請求しうる範囲は信義則上損害額の4分の1を限度とすべきであるとし、原判決を維持しました。