Case53 団体交渉に所長及び代理人弁護士のみを出席させ資料を開示しなかったことが不誠実団交に当たるとされた事案・国・中労委(長澤運輸・団交)事件・東京高判令3.1.28労判1241.35

(事案の概要)

 中央労働委員会(中労委)の不当労働行為救済申立に対して会社が起こした取消訴訟です。

 労働組合と会社との間の別件不当労働行為救済申立事件において「会社は、組合に対して、労働条件につき、会社の代表者ないしこれに準ずる権限のある者を参加させて、労使の合意が図れるように、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行うことを約束する」との条項が含まれる和解が成立していました。

 しかし、その後行われた定年後再雇用者の労働条件や賃上げ等を議題とした3回の団体交渉において、会社側は、所長及び代理人弁護士5名のみが出席し、代表取締役は出席しませんでした。組合は、団体交渉に代表取締役を出席させず、資料を提示して説明を行わなかったことが不当労働行為であるとして東京都労働委員会(都労委)に救済申立をしました。

 都労委は、会社の対応が不誠実団交に該当するとして、不当労働行為救済命令を発しました。

 中労委も、不誠実団交を認め、会社に対して①組合が申し入れた賃上げ等を議題とする団体交渉において、代表取締役又は代表取締役に準ずる実質的な交渉権限を付与した者を出席させ、自らの主張の裏付けとなる資料を提示して具体的な説明を行うなどして誠実に応じなければならないこと、②文書交付、③履行報告を命じました。

(判決の要旨)

一審判決

 一審判決は、交渉担当者が、使用者側の見解の根拠を具体的に示すなどする権限を有していれば足り、交渉担当者が実質的な交渉権限を有していたか否かは、形式的な交渉権限の有無だけではなく、実際の団体交渉における具体的な言動を踏まえて検討すべきであるとしました。

そのうえで、形式的には所長や代理人弁護士を交渉権限を有する者とみても不自然ではないとしつつ、団交における所長や代理人弁護士の具体的な対応をみると、具体的な理由や中身に触れることのないまま、即答を避ける態度に終始し、会社の判断である旨や説明するつもりがない旨の回答を繰り返したこと等から、会社が所長や代理人弁護士に実質的な交渉権限を付与していたとはいえないとし、和解に反する不誠実団交であるとしました。

また、会社が団交で資料の提示を一切行わなかったことも和解に反する不誠実団交であるとし、会社の請求を棄却しました。

控訴審判決

 控訴審も、一審判決を維持しました。

※ 上告不受理で確定

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