Case62 自由な意思論に基づき妊娠中の退職合意の存在を否定した事案・TRUST事件・東京地立川支判平29.1.31労判1156.11

(事案の概要)

 建築測量や墨出し工事等に従事していた女性労働者である原告の妊娠が判明し、現場作業が難しくなったことから、被告会社の代表者は、原告に対して代替手段として、被告代表者が経営する派遣会社への派遣登録を提案しました。原告は、これを受け入れ、派遣先で1日だけ勤務しました。

 そうしたところ、上記提案の約6か月後、原告は、被告代表者から、原告が退職扱いになっていると告げられ、離職票の発行を請求すると、退職理由が「一身上の都合」とされていました。

 本件は、原告が退職合意を否定し、労働契約上の地位確認や賃金の支払を求めた事案です。また、原告は、本件が実質的に妊娠を理由とした解雇であって、男女雇用機会均等法(均等法)違反であるとして、慰謝料150万円の支払を求めました。

(判決の要旨)

 判決は、均等法の趣旨に照らすと、女性労働者につき、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要がある(所謂自由な意思論)としたうえで、具体的な退職手続きがなかったことや、派遣登録の提案から約6か月経ってから被告会社から退職扱いとなっている旨の説明を受けたなどの事情から、退職合意の存在を否定し、労働契約上の地位を認めました。

 一方、派遣登録を受け入れたときから休職合意があったと認定し、賃金請求については、被告が原告に退職扱いとなっていることを告げた以降の賃金のみ認めました。

 また、慰謝料請求については、被告には過失があるものの、原告に一方的に不利益を課す意図はなかったとして、20万円の支払を命じました。

※控訴

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