Case89 就業規則作成・変更の合理性の判断基準を示した最高裁判例・第四銀行事件・最判平9.2.28労判710.12【百選10版22】

(事案の概要)

 被告会社では、定年の55歳以降も、定年後在職制度により同様の労働条件で58歳までの在職を認めていました。

 会社は、定年を60歳に延長するにあたり、労働組合と締結した労働協約を踏まえて、55歳以降の賃金を54歳時の63%~67%とする就業規則変更を行いました。

 本件就業規則変更の1年半後に55歳に達する原告労働者は、就業規則変更の効力が自身に及ばないとし、会社に対して差額賃金の支払等を求めました。

(判決の要旨)

一審判決

 一審は、本件就業規則変更の合理性を否定しましたが、労働協約の一般的拘束力(労組法17条)により原告の請求を棄却しました。

控訴審判決

 控訴審は、本件就業規則変更の合理性を肯定して原告の請求を棄却しました。

上告審判決

 最高裁は、就業規則の条項が合理的なものであるとは、当該規則条項の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合をいうとしました。

 そして、当該合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度使用者側の変更の必要性の内容・程度変更後の就業規則の内容自体の相当性代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況労働組合等との交渉の経緯他の労働組合又は他の従業員の対応同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきとしました。

 本件就業規則の変更については、労働者の被る不利益はかなり大きいものの、60歳定年制の必要性や労働組合との交渉の経緯等から、不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとし、変更を有効としました。

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