Case93 人件費削減目的でないにもかかわらず賃金減額をもたらし代償措置も不十分である賃金制度の変更が不合理であるとされた事案・社会福祉法人賛育会事件・東京高判平22.10.19労判1014.5

(事案の概要)

 被告法人は、多くの福祉施設が成果型賃金制度を導入しており、被告法人においても同様に年功序列型賃金制度から成果主義型賃金制度に変更する必要性があるとして、職能資格制度を導入するとともに、就業規則や賃金規程等を変更し、成果主義型の新人事制度を導入しました。

 新賃金制度では、旧賃金制度と同等の給与を得るためには速いペースで昇格することが必要で、そのような昇給をこなす労働者は少数でした。また、賃金減額の代償措置として調整手当が導入されたものの、支給は3年間とされていました。労働者に対する新賃金制度の事前の説明も概括的なものにとどまっていました。

 新人事制度導入により賃金減額となった原告ら労働者は、新人事制度導入に伴う就業規則等の変更が不利益変更に当たり無効であるとして、差額賃金等の支払を求めました。

(判決の要旨)

 判決は、本件就業規則等変更が、人件費削減を目的とするものではないにもかかわらず、原告らを含め従業員の賃金減額をもたらし、代償措置もその不利益を解消するに十分なものとはいえないのであって、新賃金制度の導入目的に照らして賃金減額をもたらす内容への変更に合理性を見出すことは困難であるとしました。

 また、そのような基本的な労働条件を変更するには、特に十分な説明と検証が必要であるが、原告らを含め従業員ないし労組に対する説明は十分にされたとはいえず、新賃金制度の内容にも問題点があり、緊急の必要性があったとも認められないとしました。

 そして、賃金規程の変更に同意しない原告らに対し、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものではなく、本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、原告らにその効力は及ばないとして、差額賃金の支払を認めました。

※確定

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