Case108 退職金の額を「中退共と養老保険の支払額」とするのみで計算方法の記載がない就業規則では、実質的周知がされたとはいえないとされた事案・中部カラー事件・東京高判平19.10.30労判964.72

(事案の概要)

 被告会社では、旧就業規則により適格退職年金契約に基づく企業年金制度を採用していましたが、適格年金資産の運用利回りの低下により退職金の積立不足が生じたため、中小企業退職金共済制度及び第一生命保険相互会社の養老保険を採用することとし、退職金の金額を「中小企業退職金共済制度と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い、その支払額」とする新就業規則への変更がなされました。

 変更に際して、会社から従業員に対して就業規則変更の概要の説明がありましたが、従業員から異議は出ず、原告を含む従業員は中小企業退職金共済契約申込書に署名しました。

 新就業規則の内容は周知されましたが、新就業規則には具体的な退職金の計算方法は記載されていませんでした。

 被告を退職した原告労働者は、旧就業規則による計算では退職金が約1000万円支払われるはずであったのに、新就業規則に基づき退職金が約300万円しか支払われなかったため、新就業規則への変更の有効性を争い、差額の退職金の支払を求めました。

(判決の要旨)

 判決は、就業規則の変更に際して、会社から従業員に対して、中途退職すると退職金が減額となる場合があることなどについて説明があったとは認められず、原告を含む従業員に対して、新就業規則の実質的周知がされていたとはいえないとしました。

 また、「中小企業退職金共済制度と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い、その支払額」とする新就業規則が周知されただけでは、退職金の計算(労基法89条3号の2)について実質的周知がされたものとはいえないとし、就業規則の変更を無効とし、差額の退職金の支払を認めました。

※確定

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