Case168 代表理事の指示及び決裁に基づき就業規則にない手当や残業代、昇給等を受給していたことを理由とする解雇が無効とされた事案・一般社団法人奈良県猟友会事件・大阪高判令3.6.29労判1263.46

(事案の概要)

 経理業務を行っていた原告は、当時の法人代表理事であったAらの指示に基づき、労基法や給与規程とは異なる計算方法により自己の残業代を計算し、Aの決裁を受けてこれを受給していました。また、Aの指示及び決裁に基づき、給与規程にない手当を受給していました。

 さらに、Aは独断で原告の基本給を15万5000円から18万円に増額しました。

 Aが死亡し代表理事が交代したことから、法人は原告の給与を元の金額に戻す旨の理事会決議をし、原告の給与を一方的に15万5000円に減額しました。

 法人は、原告が正当な根拠のない基本給の増額や残業代及び手当等の支給を受けていたなどとして、原告を普通解雇するとともに、増額した給与や残業代及び手当等が不当利得であるとして原告に返還を求めました。

 原告は、解雇の無効を主張して雇用契約上の地位の確認等を求めるとともに、法人による一方的な給与減額は無効であるとして差額賃金の支払いを求めました。

 なお、法人は整理解雇の主張もしていましたが人員削減の必要性がないとして無効と判断されています。

(判決の要旨)

 判決は、一般社団法人法の定めや法人の定款などから、法人の代表理事は、事務員の通常の労務管理についての業務執行の決定を委任されていたとしました。そうすると、Aは、法令・定款や就業規則に反しない限り、上記業務執行につき相応の裁量権をもって定めることができ、仮にその決定に法人の利益を害する権利濫用があったとしても、行為の相手方が濫用の事実を知り又は知り得べきものであったときに限り、当該行為は無効とされるとしました。

 そして、Aによる原告に対する残業代の支給は権限を濫用したものとはいえず、手当の支給や基本給の増額を無効とする事情もないとして、原告に対する解雇を無効とし、法人による不当利得返還請求を棄却しました。

 また、基本給の増額が有効である以上、その後の法人による賃金減額は無効であるとし、差額賃金の支払いを認めました。

※確定

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