Case211 タイムカードがある月の残業代からタイムカードがない月の残業代を推定し、自己負担した健康診断費用の不当利得返還請求を認めた事案・社会福祉法人セヴァ福祉会事件・京都地判令4.5.11労判1268.22

(事案の概要)

 保育士である原告労働者による残業代請求等の事案です。

 残業代請求について争点が多岐に渡り、休憩時間の有無、変形労働時間性の有効性、固定残業代の有効性、管理監督者性、タイムカードがない月の労働時間等が問題となりました。

 一人担任である原告は、休憩時間も保育現場を離れることができず、食事も園児と一緒にとっていました。

 労働契約書には基本給の中に月15時間分の時間外割増賃金が含まれているかのような記載がありましたが、被告法人の年俸規程では基本給はその全額が時間外割増賃金の算定の基礎となるものとされていました。

 原告は、減額された固定給(認容)、自己負担した健康診断費用の不当利得返還、慰謝料(棄却)の支払いも求めました。

(判決の要旨)

1 休憩時間

 判決は、原告が休憩をとることができなかったとして、休憩時間はないものとして労働時間を認定し、タイムカード通りの残業代請求を認めました。

2 変形労働時間性

 法人は1か月単位の変形労働時間性を採用していましたが、判決は、勤務シフト表の週平均労働時間が常時40時間を超過するものであったことから要件を欠き無効であるとしました。

3 固定残業代

 判決は、労働契約書の固定残業代の記載は、就業規則の最低基準効に反し無効であるとしました。

4 管理監督者性

 ①経営者との一体性、②労働時間の裁量、③賃金等の待遇のいずれの要素も否定しました。

5 タイムカードがない月の労働時間

 判決は、タイムカードのある21か月間に概ね月30万円の残業代が生じていたことから、タイムカードのない月も同等の残業代が生じていたと推定しました。

6 健康診断費用

 判決は、安衛法により事業者に健康診断の実施が義務付けられている以上、当然に事業者が費用負担すべきであるとして不当利得返還請求を認めました。

 また、安衛法上、労働者が事業者の指定医師が行う健康診断を希望しない場合に他の医師の行う健康診断を受けることができるとされていることから、使用者は、労働者の負担した費用が必要性、合理性を欠く場合でない限り、償還を拒むことができないとして、原告が受けた2~3万円のコースの費用を償還しなければならないとしました。

※控訴

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