Case302 在宅勤務者に対する業務上の必要性のない出社命令が無効であるとされた事案・アイ・ディ・エイチ事件・東京地判令4.11.16労判1287.52

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社と、デザイナーとして就業場所を「本社事務所」とする雇用契約を締結しましたが、初日のほかに、事務所に出社したのは一度だけで、入社から約10か月間ずっと在宅勤務をしていました。

 会社は、原告と他の従業員のチャットのやり取りに代表者を揶揄する内容が含まれていたとして、原告に対して「管理監督の観点からリモートワークを禁止する」として、出社命令をしました。

 原告が出社命令に応じなかったため、会社は14日間の無断欠勤があったものとして原告を退職扱いとしました。なお、その後原告は自主退職の意思表示をしました。

 本件は、原告が会社に対して、違法な出社命令等により労務を提供することができなかったとして、民法536条2項に基づき出社命令から自主退職までの期間の賃金等を請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、会社代表者が①デザイナーは自宅で勤務をしても問題ない、②リモートワークが基本であるが、何かあった時には出社できることが条件である旨供述していること、③実際に原告がほぼ出社しておらず、会社もそれに異論を述べていないことから、本件労働契約においては、契約書の記載にかかわらず、就業場所は原則として原告の自宅とし、会社は、業務上の必要性がある場合に限って、本社事務所への出勤を求めることができると解するのが相当であるとしました。

 そして、オンライン上に限らず、従業員同士の私的な会話が業務中に行われることもあり、そのことを理由に事務所への出社を命じる業務上の必要性が生じたともいえないとして、本件出社命令を無効とし、賃金請求を一部認めました。

※控訴後和解

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