Case368 使用者が実態と異なることを理由に就業規則の拘束力を否定することは許されず、出来高払制とされていたトラックドライバーにも日給月給制を採用する就業規則が適用されるとした事案・大島産業事件・福岡高判平31.3.26労経速2393.24

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社で長距離トラックドライバーとして勤務していました。

 会社は本件就業規則作成時には土木工事業のみを営んでおり、従業員の賃金体系を日給月給制としていました。しかし、その後始めた運送業において、ドライバーには就業規則よりも不利な出来高払制で賃金を支払っていました。

 土木工事業の従業員を念頭に作成され、ドライバーの実態とは異なる本件就業規則による日給月給制が原告に適用されるかが争点となりました。

 また、深夜割増賃金が基本給に含まれているといえるか、回送運転中の停車時間や指示待ち時間が労働時間(休憩時間)に当たるかも争点となりました。

 原告は、①損害賠償金等の名目で控除された賃金の請求、②事実上の取締役Y2から受けたパワハラについて、Y2及び会社に対する損害賠償請求もしました。

 なお、会社から原告に対する損害賠償請求も一部認められています。

(判決の要旨)

1 本件就業規則による日給月給制の適用

 判決は、本件就業規則には「会社に勤務するすべての従業員に適用する」との定めがあり、その他の労働条件の定めもドライバーに不利益をもたらすものではないとして、労働契約法7条により原告にも本件就業規則の日給月給制が適用されるとし、仮に出来高払制の合意があったとしても労契法12条の最低基準効により無効であるとしました。

 会社は、本件就業規則はドライバーの実態とあわず「合理的な労働条件を定めている」とはいえないと主張しましたが、個別の合意によることなく労働条件を規律すべく就業規則を定めた使用者が、その拘束力を否定することは禁反言の法理に反して許されないとしました。

2 固定残業代

 原告の給与明細に通常の賃金と割増賃金の判別に足る記載はなく、賃金算定の基となる路線単価を定めるに当たっても深夜労働の有無や長さは厳密に検討されていないから、基本給に深夜労働に対する割増賃金を含むとの合意が成立していたとは認められないとしました。

3 労働時間

 回送運転中の停車時間は、10分から数時間にわたって走行が全くなかったり、回送運転は積み荷を降ろした後の走行であって、翌日の点呼の時間までに車庫に帰着していれば足りるとされていたことなどから、回送運転中の停車時間は休憩時間であり労働時間に当たらないとしました。

 他方、会社や取引先から命じられれば直ちに出発できるように車内で待機していた指示待ち時間については労働時間に当たるとしました。

4 賃金控除

 自由な意思論を示しつつ、原告と会社との間で賃金控除の合意があったとはいえないとして、控除を違法としました。

5 パワハラ

 原告が丸刈りにされて洗車用の高圧洗浄機を噴射されたり、ロケット花火を発射されて川に飛び込まされたり、社屋の入口前で土下座をさせられたりしたパワハラについて、これらの事実が写真とともに会社のブログに掲載されていることから、Y2の指示があったものと認められるとして、Y2の不法行為責任と、会社法350条の類推適用による会社の責任を認めました(慰謝料100万円)。

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