Case373 月80時間分相当の固定残業代の定めが公序良俗に違反し無効とされた事案・イクヌーザ事件・東京高判平30.10.4労判1190.5
(事案の概要)
固定残業代の有効性が争点となった残業代請求事件です。
原告労働者と被告会社の雇用契約では、基本給のうち一定額を月80時間分の固定残業代として支給するものとされていました。
(判決の要旨)
判決は、いわゆる過労死認定基準において、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える労働時間が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できることを示しているとしたうえで、1か月あたり80時間程度の時間外労働が継続することは、脳血管疾患及び虚血性心疾患の疾病を労働者に発症させる恐れがあるものというべきであり、このような長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定して、基本給のうち一定額をその対価として定めることは、労働者の健康を損なう危険のあるものであって、大きな問題があるといわざるを得ないとしました
そして、実際には、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき、通常は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効とするのが相当であるとしました。
本件については、原告につき少なくとも月間80時間に近い時間外勤務を恒常的に行わせることを予定したものということができ、現実の勤務状況も過労死基準を超える状況が少なからず生じていたことから、本件固定残業代の定めは公序良俗に違反し無効としました。
会社は、月80時間の固定残業代が無効だとしても、時間規制の範囲内の月45時間分の固定残業代としては有効であると主張しましたが、そのような合意は認定できないとして否定されています。
※上告棄却により確定