Case428 2つの会社が実質的に同一であるとして法人格否認の法理を適用するとともに未払賃金について会社法429条の取締役の責任を認めた事案・エヌアイケイほか事件・大阪高判令5.1.19労判1289.10
(被告ら略称)
Y1社 ㈱エヌアイケイ(平成30年3月設立)
Y2社 コミュニケーションズネットワーク㈱(令和元年6月設立)
Y3 乙山(Y1代表取締役、Y2取締役)
Y4 丁原(Y1取締役、Y2取締役)
Y5 丙川(Y1従業員、Y2代表取締役)
(事案の概要)
原告労働者は、平成30年3月にY1社と雇用契約を締結し、基本給月額28万円、技術手当4万5000円(同年8月分からは5万円)という条件で、システム開発等の業務に従事していました。令和元年6月にY2社が設立され、原告を含むY1社の従業員は、Y2社の従業員となりました。
原告の令和元年8月分及び9月分の給与は基本給21万円に減額されました。
また、原告に対して令和元年7月は5日間、同年8月は15日間しか業務が割り当てられず、派遣先からの派遣料が日割計算であったことから、Y2社は原告に対して不就労日を欠勤控除した給与しか支払いませんでした。
さらに、Y2社は、技術手当は月の労働時間が160時間を超えた場合に割増賃金として支払われる運用をしていたとして、令和元年7月以降原告に対して技術手当を支払いませんでした。
原告は、令和元年9月でY2社を退職しました。
本件は、原告がY1社及びY2社に対して、Y1社とY2社は実質的に同一であるとして、未払賃金や未払残業代等を請求し、Y3ないしY5に対しても会社法429条の取締役の責任として同額の請求をした事案です。
原告が立て替えた交通費、証明写真代及び郵送費の請求なども認められています。
(判決の要旨)
1 基本給の減額について
被告らは、派遣先からの委託料が変更になったため原告が基本給の減額に同意していたなどと主張しましたが、判決は、そのような同意は認められないとして、基本給の減額を無効としました。
2 欠勤控除について
判決は、原告の給与はあくまで月給制であり、日給制ではないところ、原告の勤務日数が少ないのは原告に業務が割り当てられなかったためであり、Y2社の都合によるものであるとして、そのことを理由に欠勤控除をすることはできないとしました。
3 技術手当の不支給について
判決は、技術手当を割増賃金として支払うことが雇用契約の内容になっていたということはできず、月の労働時間が160時間を超えた場合のみ支払われるという約定もなかったとして、技術手当の請求を認めました。
4 法人格否認の法理について
判決は、Y1社とY2社は、経営体制に継続性があり、実質的にはY3がY2社の代表者であることもうかがわれるなどとして、経営陣、従業員、事業内容などの主要な要素を同一にするものであり、その実態において一連性を有するといえるから、Y1社とY2社は実質的に同一というべきであるとしました。
そして、Y1社とY2社には法人格否認の法理が適用され、信義則上、Y1社とY2社が異なる法人格であることを理由に責任を免れることはできないとして、Y1社とY2社に同額の連帯責任を認めました。
5 取締役の責任について
判決は、賃金債権は要保護性が高く、労基法上も、賃金の支払義務の違反については罰則が設けられていることからすれば、会社をして法令違反および契約違反がないように賃金の支払義務を遵守させることは、役員の職務(任務)であり、役員において、当該任務の懈怠につき悪意又は重過失があり、これにより原告に損害を与えたときは、Y3ないしY5は、会社法429条1項に基づき賠償責任を免れないとしました。
そして、単純な基本給の未払(令和元年5月分及び6月分)等、一部Y3ないしY5の責任を認めました。
※確定