Case469 グループホームにおける生活支援員の宿泊時間が全体として労働時間に当たるとされた事案・社会福祉法人A会事件・東京高判令6.7.4
(事案の概要)
原告労働者は、被告法人が経営する4か所のグループホームにおいて、入居者の生活支援の業務を行っていました。
原告の勤務形態は、午後3時から午後9時まで勤務し、そのまま施設に宿泊し、翌午前6時から午前10時まで勤務するというものでした。
宿泊勤務の際は、生活支援員1名の体制であって、入居者(多くは知的障害を有し、重度の知的障害や強度の行動障害を伴う者も含まれていました。)が起床した際の対応をしなければなりませんでした。
本件は、原告が法人に対して、宿泊勤務の時間が労働時間に当たるとして残業代請求した事案です。
(判決の要旨)
一審判決(千葉地判令5.6.9労判1299.29)
判決は、実作業に従事していない時間であっても労働契約上の役務の提供が義務付けされていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれており、労働時間に当たるとしました。
そして、法人の運営するグループホームにおいては、その性質上、毎日深夜も生活支援員が駐在する強い必要性があり、各施設につき1人の生活支援員が宿泊して勤務していたこと、入居者の多くが知的障害を有し、中にはその程度が重い者や強度の行動障害を伴う者も含まれていたこと、特定のグループホームにおいては複数の入居者が頻繁に深夜又は未明に起床して行動し、その都度生活支援員が対応していたこと、などの事情から、宿泊勤務の時間は、実作業に従事していない時間を含めて、労働契約上の役務の提供が義務付けされていると評価することができるから、労働からの解放が保障されているとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれていたとして、労働時間に当たるとしました。
もっとも、一審判決は、夜勤時間帯8時間に対して夜勤手当6000円のみが支払われていたことから、割増賃金の基礎となる賃金単価について、通常の労働時間の賃金を基礎とせず、夜勤手当のみを基礎賃金として、割増賃金算定の基礎となる賃金単価は750円であるとして割増賃金を算定しました。
控訴審判決
控訴審も、宿泊勤務時間の労働時間性を認めた一審判決の判断を維持しました。
また、労基法37条の割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」を基礎として算定すべきものであるとして、夜勤手当のみを基礎賃金とした一審判決を変更し、基本給、その他手当の合計額を基礎賃金として夜勤時間帯の割増賃金を算定し、原告の請求を全面的に認めました。
※確定