【残業代】Case603 携帯電話のGPS記録や入退館記録による残業代請求が認められた事案・T4U事件・東京地判令6.3.28労判1331.87

会社がタイムカード等による客観的な労働時間管理をしていなかった場合、その他の客観証拠により労働時間を立証して残業代請求することはできるのでしょうか。

T4U事件(東京地裁令和6年3月28日判決労判1331号87頁)は、雇用主による明示的な労働時間管理がない中で、主に客観的記録に基づいて割増賃金が請求された事案です。

【事案の概要】

原告労働者Xは、被告Y社の従業員として、ハードウェア・ソフトウェア製品の販売やマーケティング業務等に従事していましたが、Y社はXの労働時間をタイムカード等の客観的な方法で管理していませんでした。

本件は、XがY社に対して、残業代請求した事案です。

XとY社との雇用契約書には「残業代を含む」と記載されていました。

Xは、携帯電話のGPS記録、警備記録(入退館)、会社ホルダーへの保存時間などから労働時間を主張しました。

【判決の要旨】

1 固定残業代

雇用契約書に「残業代を含む」と記載されていましたが、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分が明確に判別できる形ではなかったため、月当たりの固定残業代が支払われていたとは認められないと判断されました。

2 労働時間の認定

GPS記録(事務所内所在推認)、警備記録(入退館)、および会社ホルダーへの保存時間(社外保存が可能となる前の期間)といった客観的な記録に基づき労働時間が認定されました。特に、GPS記録による労働時間算定について、原則として、原告が事務所内に所在したと推認できるGPS記録の終了時刻を終業時刻とし、GPS記録と警備記録が存在する日については、GPS記録の終了時刻と、警備記録上の退館時刻の2分前のうち早い時刻を終業時刻と認めるべきであるとされました。

3 付加金

残業代未払いに酌むべき事情はないとして、割増賃金と同額の付加金の支払いが命じられました。

【まとめ】

・タイムカード等がない未管理労働時間において、GPS記録、警備記録、およびファイル保存履歴といった客観的データを組み合わせて労働時間を具体的に認定することができる場合がある。

・雇用契約書に「残業代を含む」と記載されていても、通常の賃金部分と割増賃金部分が明確に判別できない場合、固定残業代としては認められない。

※確定

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