Case484 自殺した新入社員の手帳の記載から上司による業務上の注意指導の域を超える精神的攻撃が認定された事案・暁産業ほか事件・名古屋高判平27.9.16
(事案の概要)
本件労働者は、平成22年2月から被告会社でアルバイト勤務をはじめ、高校卒業後の同年4月から正社員として勤務を始めました。本件労働者は、リーダーである被告上司に同行して、消火栓や火災報知器などの点検業務を行っていました。
被告上司は、本件労働者の仕事の覚えが悪いことから、本件労働者に対して自分が注意したことは必ず手帳に書くように指導していました。
本件労働者の手帳には、以下のような記述がありました。
・学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分
・詐欺と同じ、泥棒したのと同じ
・相手するだけ時間の無駄
・嘘を平気でつく、そんなやつ会社に要るか
・会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ
・死んでしまえばいい
また、本件労働者は、平成22年7月半ば頃、仕事中に母親に電話し「仕事をやめてもいいか」「『仕事がはかどらないから車の中にいろ』と言われて今車の中にいるんや」と泣きながら話し、同年秋頃からは帰宅後食事もとらず、風呂にも入らないでいることが多くなり、同年11月29日に自殺に使用したロープを購入し、遺書を記載し、同年12月6日に自殺しました。
本件は、本件労働者の父親である原告が、会社及び被告上司らに対して損害賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、上記手帳の記載は、被告上司の指導に従って、被告上司から受けた指導内容、言われた言葉やこれらを巡っての自問自答が記述されたもので、被告上司自身も自分が注意したことは手帳に書くように指導していたことを認めていること、手帳の全ての日付が被告上司をチームリーダーとして業務していた日であること、記述内容が客観的事実と符合していることから、上記手帳の記載内容は、一部自問自答の部分を含むため、不明瞭な部分があるとはいえ、本件労働者は被告上司から上記のような言葉又はこれに類する言葉を投げかけられたことが認められるとしました。
そして、被告上司の上記発言は、本件労働者の仕事上の不手際等に対する叱責にとどまらず、本件労働者の人格や能力、存在を否定し、雇用の継続に対する不安を生じさせ、心理的負荷をいたずらに増幅させる内容の言辞であり、経験豊かな上司である被告上司から、入社後1年に満たない高卒の新入社員であって部下という弱い立場にあるといえる本件労働者に対し、相当な期間にわたって複数回発せられたものであることを考慮すれば、社会通念上許容される業務上の注意指導の域を超える精神的攻撃に当たると評価すべきであるとして、被告上司の不法行為責任及び会社の使用者責任を認めました。
※一審は福井地判平26.11.28労判1110.34