Case58 退職後の競業避止義務を定める合意を一部無効とした事案・レジェンド元従業員事件・福岡高判令2.11.11労判1241.70

(事案の概要)

 本件は、保険代理店業務を行う原告会社が、元従業員である被告労働者に対して、競業避止義務違反等を理由に損害賠償請求した事案です。

 原告会社は、代表取締役が個人事業として経営していた同業のA社が法人化した会社でした。被告労働者は、元々個人事業として同業のB社を経営していましたが、原告会社の立ち上げに向け、A社に合流しました。その際、B社において被告労働者が獲得した顧客(Y既存顧客)はA社に移管され、後に原告会社に移管されました。

 被告労働者は、原告会社において、「退職後、同業他社に就職した場合、又は同業他社を起業した場合に、原告会社の顧客に対して営業活動をしたり、原告会社の取引を代替したりしないことを約束します。」(本件競業避止特約)と記載された機密保持誓約書にサインしていました。

 被告労働者は、原告会社を退職し、同業のC社に入社した後、Y既存顧客であった顧客から連絡を受け、当該顧客と保険契約を締結しました。

(判決の要旨)

一審判決

 一審は、本件競業避止特約について、Y既存顧客か否かを問わず、期限の定め等もなく営業活動を禁止するものであり、その全てを有効と解することは公序良俗に反して許されないものの、退職後2か月間に限り有効とし、原告会社の請求を一部認めました。

控訴審判決

 控訴審は、退職後の競業避止義務は、労働者が負う不利益の程度、使用者の利益の程度、競業避止義務が課される期間、労働者への代償措置の有無等の事情を考慮し、合意が公序良俗に反して無効となる場合や、合意の内容を制限的に解釈して初めて有効となる場合があると判示しました。

 そして、Y既存顧客に対する営業を禁止することは被告労働者が負う不利益が大きく、代償措置もとられていないとして、本件競業避止特約により、Y既存顧客に対する営業活動も禁止されたと解することは公序良俗に反するものであり、少なくとも、Y既存顧客に対して行う営業活動のうち、当該顧客から引き合いを受けて行った営業活動であって、被告労働者から当該顧客に連絡して勧誘をしたとは認められないものについては、競業避止義務の対象に含まれないと解すべきであるとし、一審判決を取り消し、原告会社の請求を棄却しました。

Follow me!