Case124 学校長から教員への職位の降格は有効だが、就業規則上根拠のない職能資格の降格及び減給は無効であるとされた事案・学校法人聖望学園ほか事件・東京地判平21.4.27労判986.28

(事案の概要)

 原告労働者は、被告法人と雇用契約を締結し、被告法人が経営する中学・高校の学校長として勤務していました。被告法人において、学校長については4年毎に理事会において再任する手続きが行われており、それを「任期」と呼んでいましたが、就業規則上任期の規程はありませんでした。また、過去に再任を希望しながら理事会において再任を認められなかった学校長はいませんでした。

 原告は、雇用契約及び学校長就任の4年後に、理事会の退任決議により、学校長を退任させられ、以降教員として稼働しました。

 原告には、当初4級(校長職)10号給により月額48万5500円、管理職手当月額6万5352円、業務手当月額2万3000円等が支払われていましたが、学校長退任後は、2級50号給により月額48万6400円、業務手当月額2万4320円とされ、管理職手当はなしとされました(代わりに教務調整額約2万円支給、本件降格)。就業規則上、号俸は1年に1号俸昇給するとされているため、学校長退任後の原告の給与は実質的には減給に当たるものでした。また、被告法人の就業規則には給与減額を想定した規定はありませんでした。

 その1年後、被告法人は一方的に原告の賃金を、2級22号給により月額39万6100円等としました。

 本件は、原告が被告法人に対して、学校長としての職種限定契約を主張し、学校長としての地位の確認や差額賃金を求めた事案です。被告法人及び被告理事長に対して損害賠償請求もしましたが否定されました。

 被告法人は、本件雇用契約は4年間の期間の定めのある雇用契約であり、学校長退任の際に原告との雇用契約は任期満了により一旦終了していると主張しました。

(判決の要旨)

⑴ 本件雇用契約及び退任決議の性質

 判決は、被告法人の就業規則に期間の定めのある雇用契約を想定した規定が存在しないこと、本件雇用契約締結時に、理事会により再任されなければ退職となるという説明がなかったことなどから、本件雇用契約は期間の定めのない雇用契約であるとし、学校長としての退任は、雇用契約を終了させる効果を持つものではなく、降格処分としての効果を持つものであるとしました。

⑵ 職種限定契約

 判決は、学校長は教員と異なる意味での職種とは認められないとし、本件雇用契約は職種限定契約に当たらないとしました。

⑶ 降格減給

 判決は、本件降格は、①学校長の給与から教員の給与への減額、②職位としての学校長の地位の否定という2つの法的意味を持つ行為であるとし、②については被告法人の人事権の裁量の範囲内であり有効としました。

 ①については、被告法人の給与体系を職能資格制度であるとし、職能資格の降格は到達した職務遂行能力の認定の引下げを意味し、制度が本来予定していないものであるから、降格は就業規則なり雇用契約の中で明確に位置づけられていなければ根拠のない違法なものであるとしました。

 そのうえで、被告法人の就業規則には、給与号俸の降格の根拠となる規程は存在せず、被告法人が降格によって原告の本俸及びそれを前提とする業務手当の額を減額したことは違法無効であるとしました。

 1年後に行われた降格減給も無効としました。

※控訴

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