Case154 退職か賃金減額か選択するよう迫られた労働者の賃金減額の同意が自由な意思に基づくものではないとして無効とされた事案・ニチネン事件・東京地判平30.2.28労経速2348.12

(事案の概要)

 中途採用の営業職として被告会社に入社した原告労働者は、会社から営業の成績が上がっていないことを理由として、退職するか現在の半額の給与とするかという対応をせざるを得ない旨を伝えられ、やむを得ずその場で給与半減に応じました。会社は、原告に対して解雇予告手当さえ支払えばすぐに解雇できると伝えた上で、退職か賃金減額のいずれを選択するのか同日中に若しくは遅くとも翌日までに決断するよう迫っていました。

 その後半年経過しても原告の賃金は減額されたままであったことなどから、原告は会社を退職しました。

 本件は、原告が賃金減額の無効を主張して、会社に対して差額賃金の支払いを求めるとともに、賃金を減額したままにしたことなどが退職強要に当たるとして、損害賠償請求をした事案です。

(判決の要旨)

1 賃金減額について

 判決は、本件においては、原告の自由な意思に基づく同意を得る以外に賃金減額を行うことができる法的根拠はなかったにもかかわらず、すぐに解雇できるとの不正確な情報を伝えた上で、退職か賃金減額のいずれを選択するのかを迫ったものであり、原告は、十分な熟慮期間も与えられない中で、最終的には、その場での退職を回避し、今後の業績の向上により賃金が増額されることを期待しつつ、やむを得ず賃金減額を受け入れる旨の意思表示をしたものと認められるとして、原告の自由な意思に基づく同意を否定し、原告の請求を認めました。

2 退職強要について

 判決は、会社が原告を実質的に解雇する意図若しくは原告に退職を強要する意図をもって賃金減額を行うなどしたとは認められないとして、原告の損害賠償請求を棄却しました。

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