Case157 2年前の職務怠慢を理由に給与を自主返納する旨の念書による賃金放棄が労働者の自由な意思に基づくものとはいえないとされた事案・ジー・イー・エス事件・大阪地判平31.2.28
(事案の概要)
メンテナンス作業の責任者であった原告労働者は、メンテナンス作業の不手際を契機に被告会社が取引先から契約を打ち切られ、損害賠償請求訴訟を提起されたことに関して、当該事件の2年後に「私は、自らの職務怠慢で、会社の指示・命令・約束に背き、その結果、会社やお客様に対して重大な問題を招いたことを深く反省し、お詫び申し上げます。つきましては、2015年6月分の給与を頂くことはできませんので、自らの意思で会社に全額返金をさせて頂きます」などと印字した念書に署名押印し、給与を返納しました。
本件は、原告が会社に対して返納した賃金の支払い等を求めた事案です。その他の未払賃金や退職金請求も認容されていますが割愛します。
(判決の要旨)
判決は、一般に労働者が賃金を自主的に放棄ないし返納する場合、その日々の生活に大きな不利益を生じさせることになる反面、労使間の交渉力の格差を原因として形式上賃金の放棄ないし返納とみられる行為を強いられる危険があると指摘した上で、原告が被告に対し上記事件について損害賠償責任等を負うのか、どれほどの金額を負担すればよいのかについて当事者間で話し合いが行われていた形跡はうかがわれず、上記事件から2年以上経過した後になって、その責任をとって給与の自主返納を行うのは、不自然ないし唐突の感が否めず、むしろ、上記事件を契機として給与の自主返納を迫ろうとする、被告側からの働きかけの存在がうかがわれるとして、賃金放棄が、自由な意思に基づくものと認められる客観的合理的理由があると評価するに足りる事実があるとはいえないとし、原告の請求を認めました。