Case179 人事考課において客観的で明確でない事象を降格減給の主要な理由とするには少なくとも人事考課結果のフィードバックが必要であるとした事案・長大事件・東京地判令2.2.26判例秘書L07530252
(事案の概要)
被告会社では、人事考課による職務等級の昇級又は降級について、社員の職務遂行能力と役割遂行状態を総合査定して行うものとされ、基準内賃金の大部分を占める「職能給」は、資格Ⅰ~Ⅳの職能資格毎に1~50の等級を設け、各人の職務遂行能力に応じて定めるものとされ、また「職能資格手当」は職能資格に応じて支給するとされ、これらの金額は賃金テーブルに定められていました。
原告労働者は、人事考課に基づき約7年間徐々に降格減給され、月額54万2000円(うち職能給41万1000円、職能資格手当11万6000円)だった給与が月額48万5000円まで減額されました。
本件は、原告が、本件降格減給の無効を主張し、本件降格減給前の職能資格等級であり、減給前の賃金の支払いを受ける雇用契約上の地位にあることの確認や、差額賃金の支払い等を求めた事案です。
原告は、配転の無効や損害賠償請求もしましたが、否定されました。
(判決の要旨)
判決は、使用者に人事考課に関する広範な裁量権を認めるとしても、人事考課の結果が給与額の増減に直結する制度が採られ、かつ、人事考課と直結する給与(職能給、職能資格手当)がその給与額の大半を占める制度である場合には、降格、降給について、労働者の受ける不利益の程度に応じた合理的な理由が存在しない場合には、裁量権の濫用に当たるとしました。
また、人事考課においては、対象者の日常的な取り組みの姿勢等、必ずしも客観的で明確でない事象をも対象とせざるを得ないという被告の主張に対しては、そのような事象を降格・降給の主要な理由とするのであれば、少なくとも人事考課結果のフィードバックを実施し、その理由等について評価対象者に可能な限り認識、了解させて感銘付ける必要があるとしました。
そのうえで、本件降格減給の減額幅が月5000円から2万円ほど、年額にして6万円から24万で小さくない一方、降格の合理的理由が存するとはいえないことや、フィードバックすら実施されていないことなどから、本件降格減給は裁量権の濫用に当たり無効とし、地位確認及び差額賃金の支払いを認めました。