Case186 歓送迎会から職場に戻る際に起きた交通事故に業務起因性が認められた最高裁判例・国・行橋労基署長(テイクロ九州)事件・最判平28.7.8労判1145.6【百選10版46】

(事案の概要)

 本件労働者は、親会社から出向して本件会社で働いていました。

 本件会社において、親会社の中国子会社から受け入れていた中国人研修生の歓送迎会を行うことになりました。本件労働者は、資料作成の期限が翌日であることから欠席すると回答しましたが、上司から「今日が最後だから顔を出せるなら出してくれないか。」と言われ、また資料作成が終わらなければ歓送迎会の後に手伝うと言われました。

 歓送迎会開始後も本件労働者は職場で資料作成をしていましたが、一時中断し、作業着のまま社用車を運転して飲食店に向かい途中から歓送迎会に参加しました。

 歓送迎会修了後、本件労働者は、酩酊状態の研修生らをアパートまで送った上で職場に戻るため、社用車を運転して研修生のアパートに向かう途中に交通事故に遭い死亡しました。

 本件労働者の妻である原告が労基署に労災申請しましたが、不支給決定を受けたため、不支給決定に対する取消訴訟を提起しました。

(判決の要旨)

一審及び控訴審

 一審と控訴審は、歓送迎会は私的な会合であり、本件労働者の歓送迎会への参加や運転行為が会社の支配下にある状態でなされたとはいえないとして、原告の請求を棄却しました。

上告審判決

 最高裁は、労働災害に業務起因性が認められるための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であるという判例の立場を確認したうえ、本件労働者が資料作成業務の途中で歓送迎会に参加して再び職場に戻ることになったのは、上司から歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示される一方で、資料の提出期限を延期するなどの措置は執られず、むしろ歓送迎会の終了後には資料作成業務に上司も加わる旨を伝えられたためであったとしました。

 そうすると、本件労働者は、上司の意向等により歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、歓送迎会の終了後に業務を再開するため職場に戻ることを余儀なくされたのであり、会社が本件労働者に対し職務上上記の一連の行動をとることを要請していたものということができるとしました。

 また、歓送迎会は、研修の目的を達成するために会社において企画された行事の一環であると評価することができ、中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、会社間の関係の強化等に寄与するものであり、会社の事業活動に密接に関連して行われたとしました。

 そして、以上のような諸事情を総合すると、本件労働者は、本件事故の際、なお会社の支配下にあったとして、業務起因性を認め、不支給決定処分を取り消しました。

Follow me!