Case445 始末書の提出命令を拒否したことを業務上の指示命令違反として懲戒処分をすることは許されないとした事案・豊橋木工事件・名古屋地判昭48.3.14判タ297.321
(事案の概要)
原告労働者は、労働組合の支部役員として、従業員Aが被告会社から度々職場変更を命じられるのを不満として無断早退し会社から始末書の提出を求められたことに対して、会社と交渉していました。
そうしたところ、会社は、Aに対して始末書不提出を理由に3日間の出勤停止処分をしました。
組合は、出勤停止処分に対する抗議行動として、Aを出勤停止期間中に就労させる方針を固め、原告はAを出勤停止期間中の3日間就労させました。
これに対して、会社は、今度は原告に始末書の提出を求めて、原告がこれに従わないことから原告を出勤停止処分とし、原告がこれに従わないことを理由の1つとして原告を懲戒解雇しました。
本件は、原告が会社に対して解雇の無効を主張して雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、元来使用者のなす始末書提出命令は懲戒処分を実施するために発せられる命令であって、労働者が雇用契約にもとづき使用者の指揮監督に従い労務を提供する場において発せられる命令ではなく、近代的雇用契約のもとでは労働者の義務は労務提供義務に尽き、労働者は何ら使用者から身分的人格的支配を受けるものではなく、個人の意思の自由は最大限に尊重されるべきであることを勘案すると、始末書の提出命令を拒否したことを理由に、これを業務上の指示命令違反として更に新たな懲戒処分をなすことは許されないとしました。
したがって、会社のAに対する出勤停止処分は無効であり、組合がAに対する出勤停止処分に対する抗議行動をなそうとすることも無理からぬものであり、会社にも責められるべき点があるとしました。
また、同じ理由から原告に対する出勤停止処分も無効であり、出勤停止処分に従わないことは懲戒事由にならないとしました。
会社が主張するそのほかの懲戒事由も理由がないとして、懲戒解雇を無効としました。