Case112 賃金減額の提案に対して「ああ分かりました」と応答しただけでは賃金減額の同意は認められないとした事案・ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件・札幌高判平24.10.19労判1064.37

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社の経営する本件ホテルで料理人として働いていましたが、料理人の賃金は、個別契約でばらばらに定められていました。

 会社は、賃金のばらつきを解消し、合理的な賃金体系に改めることとし、賃金が低い者の賃上げを行うとともに、原告ら賃金が高い者と個別に話合いをして賃金を引き下げることとしました。

 原告の月額賃金は約52万円でしたが、会社は話合いの場において、原告に対して、月額賃金を約38万円にする代わりに賞与を支給する話を持ち掛けましたが、賃金の内訳を明らかにしませんでした。原告は納得しなかったものの、事を荒立てないよう「ああ分かりました」などと応答しました。

 その後、原告には基本給約22万4800円と職務手当15万4400円のみが支給されるようになり、原告は特に抗議せず支払いを受けていました。

 約1年後になって、会社は原告に対して「基本給22万4800円」「職務手当(割増賃金)15万4400円」とする労働条件確認書に署名するよう求め、原告はこれに署名しました。

 本件は、原告が賃金減額への合意の有無を争い、差額賃金や未払残業代を請求した事案です。職務手当の固定残業代該当性も争点となりました。

(判決の要旨)

 判決は、原告が会社による賃金減額の提案に対して、「ああ分かりました。」などと応答したことは、「会社からの説明は分かった」という程度の趣旨に理解するのが相当であり、この応答をもって、年額124万円余の賃金減額に同意したと認めることはできないとしました。

 もっとも、労働条件確認書は特に複雑なものではなく、原告がこれに署名した時点で、賃金を同書面記載の金額に減額することについて自由な意思で同意したものと認められるとし、労働条件確認書作成までの差額賃金のみ認めました。

 また、職務手当の固定残業代該当性について、会社は職務手当15万4400円が95時間分の時間外賃金であると主張しましたが、判決は、職務手当は労基法36条の上限として周知されている月45時間分の通常残業の対価として合意されたものと解釈すべきであるとし、月45時間を超えた分は別途時間外賃金を支払うべきとしました。

※上告

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