Case82 労務管理目的で労働者の診療情報を共有したことがプライバシー侵害に当たるとした事案・社会医療法人天神会事件・福岡高判平27.1.29労判1112.5【百選10版15】

(事案の概要)

 被告法人で看護師をしていた原告労働者は、被告法人が運営する本件病院の紹介により受診した大学病院でHIV陽性と診断されました。大学病院から原告の診断情報(本件情報)を得た本件病院の医師は、本件情報を副院長(原告を診察した看護師)に伝え、副院長は本件情報を院内感染対策検討のために院長、看護師長に伝え、看護師長は本件情報を看護部長と事務長に共有しました。

 そして、副院長らは、原告と面談し、HIV感染を理由に仕事を休むよう伝えました。

 本件は、原告が、医師らの本件情報共有が個人情報保護法に違反し原告のプライバシーを侵害すること不法行為であることや、HIV感染を理由に就労を制限することが働く権利を侵害する不法行為であることを主張して、被告法人に対して損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

一審判決

 一審は、本件情報共有は個人情報保護法16条1項が禁止する目的外利用に当たること、HIV感染症に罹患しているという情報を本人の同意を得ないまま法に違反して取り扱った場合は、特段の事情のない限り、プライバシー侵害の不法行為が成立するとしました。

 また、就労を妨げる不法行為の成立も認め、慰謝料200万円を認めました。

控訴審判決

 個人情報保護法16条1項は、個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないと規定しています。

 控訴審は、本件情報は、患者等の情報として定められた利用目的に従って利用することはできても、労務管理を目的として用いることは、目的外利用に当たり、事前の本人の同意がない限り、許されないとしました。

 そのうえ、本件病院の医師から以前原告を診察した副院長への伝達は主に診療目的として行われたものであると認められる余地があるものの、副院長から院長らへの伝達は、院内感染の防止を目的として、原告の就労に関する方針を話し合うためであり、診療目的の範囲には含まれず、労務管理目的であり、目的外利用に当たるとし、プライバシー侵害の不法行為を認めました。

 就労を妨げる不法行為についても一審の判断を維持しましたが、慰謝料は50万円に減額しました。

※上告不受理により確定

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