Case119 予定表の紛失を理由とする婦長から平看護婦への降格が人事裁量の逸脱として無効とされた事案・医療法人財団東京厚生会事件・東京地判平9.11.18労判728.36
(事案の概要)
被告法人が経営する病院で看護師として勤務していた原告労働者は、予定表の紛失を理由に婦長から平看護婦に二段階降格され月5万円の役職手当が不支給となり、その後自主退職しました。
本件は、原告が降格減給の無効を主張し、役職手当の支払い等を求めた事案です。
原告は、婦長としての業務を拒絶され退職に至ったことにつき、民法628条に基づく損害賠償請求も求めましたが否定されました。
(判決の要旨)
判決は、降格を含む人事権の行使が裁量を逸脱しているか否かを判断するにあたっては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情を総合考慮すべきであるとしました。
そして、①本件降格の直後に原告が予定表を発見しており、それまで法人が原告に対して予定表を徹底的に探すように命じていたか疑問があること、②予定表の紛失は一過性のものであり原告の管理職としての能力・適性を全く否定するものではないこと、③法人において過去に降格が行われてないこと、④原告が婦長就任の含みで採用されていたこと、⑤予定表の紛失により法人に具体的な損害が全く発生していないこと等から、本件では原告を婦長から平看護婦に二段階の降格をしなければならないほどの業務上の必要性があるとはいえず、降格はその裁量の範囲を逸脱した違法無効なものであるとしました。
※控訴