Case196 躁うつ病を捏造して退職したことを理由とする会社の労働者に対する損害賠償請求本訴が棄却され逆に不当訴訟を理由とする労働者の会社に対する反訴が認められた事案・プロシード元従業員事件・横浜地判平29.3.30労判1159.5

(事案の概要)

 原告会社が、退職した被告労働者に対して損害賠償請求した事案です。

 被告労働者は、上司と面談して退職することを確認し合った(退職日は争いあり)後、会社を欠勤するようになり、不安抑うつ状態と診断されました。その後、被告労働者は、会社に対して遡った日付の退職届を提出し、翌月から転職先で勤務を開始しました。

 会社は、被告労働者が躁うつ病という虚偽の事実を捏造して退職し、就業規則に定める業務の引継ぎも行わなかったと主張し、被告労働者に対して約1300万円の損害賠償を求める本訴を提起しました。

 これに対し、被告労働者は、会社に対して、本訴提起および退職妨害が不法行為に当たるとして330万円の損害賠償を求める反訴を提起しました。

(判決の要旨)

1 会社の本訴請求

 判決は、被告労働者が会社と退職の話を始めた後に不安抑うつ状態と診断されただけでなく、本訴提起された後にストレス障害により医療保護入院し、双極性感情障害と診断され自殺を図ったことなどから、被告労働者の精神疾患が虚偽のものであるとはいい難いとしました。

 また、仮に被告労働者の虚偽に躁うつ病である旨を述べたために、会社が民法627条2項所定の2週間経過前の退職を認め、業務の引継ぎをさせる機会を逸することになったとしても、会社が主張するような損害は生じ得ないとし、会社主張の損害と被告労働者の行為との間に因果関係は認められないとして本訴請求を棄却しました。

2 労働者の反訴請求

 判決は、訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利または法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、同人がそのことを知りながら、または通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合限り、相手方に対する違法な行為になるとする判例の立場を確認しました。

 そのうえで、会社が主張する被告労働者の不法行為によって会社主張の損害が生じ得ないことは、通常人であれば容易にそのことを知り得たと認めるのが相当であり、それにもかかわらず被告労働者に対して年収5年分以上に相当する約1300万円もの大金の賠償を請求することは、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き不法行為に該当するとして、被告労働者の慰謝料100万円を認めました。

 一方で、会社による退職妨害の事実はないとしました。

※控訴

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