Case281 常駐のシステムエンジニアについて管理監督者性、事業場外みなし制の適用及び手当の固定残業代該当性が否定された事案・イノベークス事件・東京地判令4.3.23
(事案の概要)
原告労働者は、現場リーダーの仕事をしてもらうとして被告会社に中途採用されたシステムエンジニアでした。
原告は、複数の客先において常駐のシステムエンジニアとして勤務し、プロジェクトリーダーを務めることもありました。
本件は、原告が会社に対して残業代請求した事案です。
管理監督者性、事業場外みなし制の適用及びプロジェクト手当の固定残業代該当性が争点となりました。
(判決の要旨)
1 管理監督者性
判決は、以下の事情等を考慮して管理監督者性を否定しました。
・原告に部下はおらず、従業員の労務管理等をすることもなかったこと
・原告の労働時間は、基本的に現場の勤務時間に従うこととされ、基本的に定時に勤務していたこと
・原告の給与額は最大で40万円であり、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほど待遇面で優遇措置を講じられていたと評価することはできないこと
2 事業場外みなし制
判決は、労基法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かは、当該使用者において当該労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったか否かという観点を踏まえて総合的に判断すべきとしました。
そのうえで、原告の業務は、勤務場所は当該客先、勤務時間は現場の勤務時間に従うこととされていて明確であり、業務内容も一定の定型性を有していることから、会社において事前にある程度その勤務状況や業務内容を把握することができたものということができ、また、原告は、業務時間中は常に携帯電話を所持し、会社と連絡がつく状態でいるよう指示され、会社代表者から連絡があった場合にはすぐ対応し、会社代表者の指示に従い、現場で面談を行う、別の現場に移動するなどしており、会社としては、勤務時間中に必要に応じて原告に連絡を取り、その勤務状況等を具体的に把握することができ、さらに原告は、会社に対し、月ごとに、毎日の始業時刻、終業時刻及び実働時間を記録した作業実績報告書を提出していたから、会社において原告の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったということはできず、「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとしました。
3 プロジェクト手当の固定残業代該当性
会社の就業規則において、プロジェクト手当は事業場外みなし制の対象となる者に支給されるとされているところ、時間外労働に対する対価である旨の規定はなく、事業場外みなし制が所定労働時間働いたものとみなす制度であることからすれば、当該手当は時間外労働に対する対価として支払われるものではないとみるのが自然であるとしました。
また、仮に一部時間外労働に対する対価としての性質を有するとしても、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないため、残業代として支払われたものであるとはいえないとしました。