Case340 提訴記者会見における訴状の記載と異なる発言が違法な名誉毀損に当たらないとされたが、事業場外みなしを無効とした判断は最高裁で差戻された事案・協同組合グローブ事件・福岡高判令4.11.10労判1309.23・最判令6.4.16労判1309.5

(事案の概要)

1 本訴(残業代及び損害賠償請求)

 外国人技能実習制度の管理団体である被告協同組合において、外国人技能実習生の指導員として勤務していた原告労働者が残業代請求した事案です。

 原告は、実習実施者への訪問・巡回指導業務に最も従事していました。

 事業場外みなし制、固定残業代、管理監督者の有効性が争点となりました。

 また、原告は、被告上司がグループチャットで原告に対する不満を述べて原告を誹謗中傷した行為等について、被告上司らに対して損害賠償請求しました。

2 反訴(提訴記者会見による名誉毀損)

 協同組合は、本訴の提訴記者会見における原告の発言が名誉毀損に該当するとして原告に損害賠償を求めて反訴しました。

(判決の要旨)

一審判決(熊本地判令4.5.17労判1309.30)

1 事業場外みなし制

 協同組合が原告らに毎月提出を求めていたキャリア業務日報には、単に業務内容だけでなく、具体的な行き先や面談者等とともに業務時間を記載することとされており、協同組合は正確性が担保された同業務日報に基づいて労働時間を把握した上で残業時間を把握していたとして、労基法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとして、事業場外みなし制を無効としました。

2 固定残業代

 協同組合の就業規則には「相談対応手当」2万円は「全額超過勤務手当として取り扱う」と規定されていましたが、支給明細書上残業時間に基づいて算定した残業手当から相談対応手当が控除されている旨の記載がないことなどからすると、同手当は実態としては時間外労働等に対する対価として支払われているものと認めることはできないとして、固定残業代を否定しました。

3 管理監督者性

 原告は協同組合の参与に就任したものの、理事会への参加は認められておらず、労務管理に指揮監督権はありませんでした。

 また、原告は必ずしも始業・終業時刻に拘束されずに勤務していましたが、それは参与に就任する以前から変わりありませんでした。

 さらに、参与就任後に基本給が1万円昇給したのみでした。

 これらの事情等から、管理監督者性が否定されました。

4 原告の損害賠償請求

 被告上司が原告を誹謗中傷するメッセージを送信した行為は、直ちにその内容が伝播するものではないとしても、優越的な関係に基づいて、業務の適正な範囲を超えて原告の就業環境を害し、ひいては原告の人格的利益を侵害するものであり、違法なパワーハラスメントであるとして、慰謝料10万円を認めました。

5 提訴記者会見による名誉毀損

 判決は、訴えの提起自体が不法行為となるのは限定された場合のみであるところ、報道機関が自ら訴状を閲覧してその内容を報道した場合との均衡を考えると、訴えの提起に伴って記者会見を行ったことにより相手方の名誉ないし信用を毀損した場合において、摘示された事実が真実であるかどうかの判断に当たっては、まず、当該記者会見において説明した内容が訴えを提起した事実及び訴状の請求原因事実の記載の事実と合致する限度で真実のものかどうかを検討し、次に、説明した内容がこれらの事実にとどまらないときは、その説明した内容に係る事実の真実性ないし真実相当性を検討するのが相当であるとしました。

 そして、記者会見における原告の発言のうち、「月に30時間以上の残業時間が3,4時間に減りました」との発言について、訴状の記載とも異なり、原告の残業時間は最高でも27時間30分にとどまっていたとして、真実性・真実相当性が認められないとして損害賠償義務を認めました。

控訴審判決

1 残業代請求

 控訴審は、原告の残業代請求について一審判決を維持しました。

2 原告の損害賠償請求

 控訴審は、被告上司のメッセージにつき、日頃から抱いていた原告に対する不満や愚痴を述べたものであり、職場における優越的な地位を背景としたものであるとはいえないなどとして、メッセージの送信が直ちに原告に対する違法なパワーハラスメントに該当するとまでは認められないとして、原告の損害賠償請求を棄却しました。

3 提訴記者会見による名誉毀損

 控訴審は、一審判決のような限定した規範を用いず、原告の発言に真実性・真実相当性が認められるか否かを検討しました。

 そして、原告のいずれの発言も真実性ないし真実相当性が認められるとし、協同組合の反訴を棄却しました。

 一審が違法性を認めた「月に30時間以上の残業時間が3,4時間に減りました」との発言についても、差異の程度などに照らして真実性・真実相当性が認められるとしました。

最高裁判決

 最高裁は、原告は多岐にわたる業務に従事し、自ら具体的なスケジュールを管理しており、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されていたものといえ、随時具体的に指示を受けたり報告したりすることもなかったという事情の下で、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示および報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を考慮すれば、原告が担当する実習実施者や1か月当たりの訪問指導の頻度等が定まっていたとしても、協同組合が労働者の事業場外における勤務状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいいがたいとしました。

 そして、原判決は、キャリア業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、同業務日報による報告のみを重視して、本件業務につき労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとしたものであり、このような原判決の判断には、上記規定の解釈を誤った違法があるとして、原告の残業代請求について高裁に差し戻しました。  

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