Case46 職務給制度に基づく職務グレードの降格を無効とした事案・Chubb損害保険事件・東京地判平29.5.31労判1166.42

(事案の概要)

 原告が、2回の降格減給処分がいずれも無効であるとして、降格前後の差額賃金等を求めた事案です。

 被告は、責任の大きさと業績により従業員の給与が決定される職務給制度(基本給は職務グレードに応じた給与レンジの中で設定され、グレードに応じた定額のグレード手当が支給される。)を導入していましたが、賃金体系を定めた給与規程等は存在せず、従業員に対する説明資料等があるのみでした。

 原告は、平成19年12月に数理部から内部監査部へ異動になり、その際職務グレードが7Sから6Sへ引き下げられ(本件降格1)、グレード手当が7万円から4万5000円に減額されました。

 その後、原告はうつ状態等により休職し、平成26年9月に人事部付として復職し、これに伴い職務グレードが6Sから5へと引き下げられ(本件降格2)、グレード手当が4万5000円から3万円に減額されました。

 リハビリ勤務中の賃金減額や残業代も争点となりましましたが、割愛します。

(判決の要旨)

 判決は、本件降格は、労働者にとって最も重要な労働条件である賃金を不利益に変更するものであるから、労働者の個別の同意もしくは就業規則や賃金規程上の明確な根拠が必要で、このような就業規則等の明確な根拠規定もなく、労働者の個別の同意もないまま使用者が一方的に従業員のグレードを引き下げること(降格)は、人事権を濫用するものとして許されないとしました。

 そして、就業規則の内容は具体的かつ一義的に明確なものであることが要請されるとしたうえ、被告の説明資料について、条文の体裁が取られた就業規則とは異なり、労働条件の準則を一義的に定めたものとは認め難く、制度の概要をまとめた説明文書にすぎず、就業規則の一部に当たると認めることはできないとしました。

 また、原告の個別同意があったかについて、山梨県民信用組合事件(最判平28.2.19労判1136.6)等の自由な意思論により、これを否定しました。

 そして、本件降格について、いずれも就業規則及びその他の根拠を欠き、原告の同意も認められず、かつ降格の合理的理由を欠くものであり、人事権を濫用したものとして無効としました。

 Blog記事「一方的な賃金減額のパターン」の「3 職務・役割等級制度上の等級の引下げによる賃金減額」のパターンに該当する裁判例です。

※ 確定

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