Case133 労働者の同意に基づき新規則上の資格制度を適用するために行う新規則における格付けは労働者の同意の趣旨に著しく反するものであってはならないとした事案・イセキ開発工機(賃金減額)事件・東京地判平15.12.12労判869.35

(事案の概要)

 原告労働者(女性)は、旧就業規則上の資格制度(二級、一級、主事補、主事、参事、参与、理事)において「主事」に格付けされ、月額給与は約35万円でした。なお、資格に対応する資格給の金額は規則に明記されていませんでした。原告は、旧規則における能力考課において主事として「概ね満足できる」とのB評価を8回連続受けていました。

 被告会社は、従業員に対して、就業規則を変更すること、「職責(職務内容)や職務遂行能力・実績・意欲などを総合的に再評価して、新基本給テーブルに位置付け」ること、格付けによって賃金減額があり得ること等が記載された本件通達を発し、原告を含む従業員は本件通達に対する同意書に署名押印しました。

 原告は、被告会社による就業規則の変更に伴い、新就業規則上の資格制度(部長・課長、部長待遇・課長待遇及び参事を管理職とし、4級、3級、2級及び1級を一般職とする。)において「一般職2級」に格付けし、従前より約11万円減給となりました。

 本件は、原告が新就業規則の適用及び降格の効力を争い、差額賃金等を請求した事案です。

 原告は、旧制度上の主事への格付けも女性であることを理由とした不利益取扱いであると主張していましたが否定されました。

(判決の要旨)

 判決は、原告が本件通達に同意したことから新就業規則の適用があるとしつつ、本件は原告の同意によって新規則を適用するために、新規則における格付けを行う権限を行使する場合であるから、会社が行使できる降格及び賃金減額の権限は、新規則の趣旨に反してはならないことはもちろん、原告の同意の趣旨に著しく反するものであってはならず、これに反するときは、客観的に著しく不合理であって、社会通念上許容しがたく、権利の濫用となるとしました。

 そして、本件通達には、旧制度の下で実施されてきた昇給のための考課(能力考課)を変更するか否か、どのように変更するかについて具体的な記載がないことから、原告が旧就業規則における能力考課の方法を著しく逸脱するような降格権限を会社に与えたものとはいえないとしました。

 そのうえで、判決は、旧規則でB評価を8回連続していた原告を一般職2級に格付けし約11万円もの減額をすることは、旧規則における能力考課の方法を著しく逸脱しており、原告の同意の趣旨に反し、権利濫用であり無効であるとしました。

※控訴

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